作物とヒトとのインターフェース
農業センシングの世界
その3…測るもの:屋外や温室の気温
道具:温度センサ

  実は,気温を正確に測るのはそんなに簡単ではありません.ここでは,温度測定装置で,温室内や屋外の気温を精度良く測る方法を紹介します.

 

気温を測るのは意外と簡単じゃない

 

●直射日光をさけても3℃くらいはズレてしまう

 温室に設置されている気温の計測制御用の温度センサには,写真1のようなものがよくあります.一応,上方からの太陽光の放射熱を防ぐ笠が付いています.
 

写真1 温室気温測定でよく使用されている笠付き温度センサ
これでもある程度正しくは測れるがそれでも3℃くらいはズレてしまう理由や対策を紹介する

 
 温度測定値を図1に示します.この後述べる,気温をより正確に測れるように工夫した通風型計測筒に入れた温度センサの測定値も並べています.
 

図1 2月のとある日の温室内気温測定値
温室内における笠程度の放射よけでの計測温度と計測筒を使った計測温度とを比較

 
 図1は,2月中旬のほぼ晴れた(正午ごろ少し雲があった)日の経時変化を示しています.
 冬至と比べると太陽の南中高度は上がり,日差し(放射熱)が強くなってきた「光の春」のころです.まだ,夜間から明け方は冷えるので,午前9時ごろまでは暖房機が動作して,温度がジグザグに変動しています.
 やがて日が差してくると,温度が上昇するとともに,笠程度の放射よけの付いた温度センサとの測定値の差が拡大します.この温室の換気窓(天窓)は,計測筒に入れた温度センサで制御されていて,28℃以上で開き始め.27℃以下で閉まり始めるのですが,笠程度の放射よけの方の昼前後の測定温度はかなり高めになっています.また,換気窓が開いたときに温室内に吹き込む風の影響か,笠程度の放射よけの方の温度の変動が大きくなっていて,温度差は一定していません.つまり,ソフトウェアで日射に応じた補正をしても正確な気温にすることは難しいのです.
 

●正確に測れない理由…放射熱

 太陽の光は上から来るので,写真1のような笠を付ければ正確に気温が測れるように思いますが,実際の温室に設置すると,大きいときには3℃程度もずれが出てしまいます.これでは,植物周辺の気温を正確に計測・記録できません.
 1番目の理由は,笠の温度が太陽の放射熱で上昇すると,そこから熱がセンサに再放射され,センサ本体の温度を上げてしまうためです.
 2番目は,最近の温室は,光環境をよくするために,地面を白色や銀色のフィルムで被覆(マルチ)する場合が多いためです.マルチから反射された下方からの太陽の放射熱が,センサ本体に直接当たってしまい,上方の笠では防げないのです.
 

長年の経験から編み出した手軽な対策…
「通風できる計測筒」

 
 屋外の気温を正確に測る良い方法は,理科の教科書でおなじみの百葉箱を使うことですが,温室に設置するには大き過ぎて邪魔になります.そこで,簡単に手に入る材料で製作して便利に使えるのが通風型計測筒です(図2).
 

図2 簡単に手に入る材料で製作できる通風型計測筒

 
 材料は,次の4 つです.

(1)直径60mmの丸型または角形のファン(電子機器冷却など用)
(2)放射よけ(ミルク色の塩ビ製雨どい)
(3)水道の凍結防止用の発泡ポリエチレンの保温チューブ
(4)農業用防虫用ナイロン・メッシュ

 

▲その1:通風装置

 ファンは,できれば防水型のものを使用するとよいのですが,高価です.普通のファンはベアリングにスチールを使用していて,湿度の高い温室では,1 ~ 2年程度でさびが発生して異音を発してダメになります.
 センサ部における風速は,昔の乾湿球温度計は3m/s以上必要と言われていましたが,今の高分子膜の小型温湿度センサは1m/s程度あれば十分です.
 必ず吸い出し方向にファンを取り付けます.このようにしないと,熱を持ったファンからの空気で,温度が高めに出てしまいます.
 

▲その2:放射よけの材料

 放射よけを作る良い材質に誤解があります.黒い色の部材がダメなことは知っている人もいるのですが,ピカピカ光る面を持つ金属がダメなことは意外と知られていません.
 アルミニウムが張り付けられたフィルムや,アルミホイルを使うとよいような気がしますが,これらの放射熱の反射率は思いのほか低いのです.
 1番良いのは,発泡スチロールの切りたての白い面です.しかし,これはすぐに風化して崩れてしまいます.風雨に耐える丈夫な純白の筒がよいのですが,安価で適当な材料がありません.
 手頃な材質ということで,灰色の水道用硬質塩ビよりは少し反射率の良い,ミルク色の雨どいとエルボが比較的入手しやすいので使用します.
 

▲その3:保温チューブ

 水道保温チューブは,雨どいが熱せられた場合の再放射により,センサの温度が上昇することを防ぎます.例えば,5月下旬に温室の中に設置した通風型計測筒の表面温度は,たとえ白っぽいミルク色の部材でも図3のように50℃以上になります.保温チューブを入れないと,通風していても,1 ~ 2℃程度高めの気温が出てしまいます.

(a)外観 (b)温度分布

図3 5 月下旬に温室の中に設置した通風型計測筒の表面温度…
上部は50℃にもなってしまうため保温チューブを入れる

 

▲その4:ナイロン・メッシュ

 そして,ナイロン・メッシュは,通風していると入りやすい虫やゴミの侵入を防ぎます.ときどき掃除する必要があります.さらに高性能を求めるのならば,100円ショップにあるお茶パックの不織布を使うとよいです.ただ,通風の抵抗が大きいので強いファンが必要になることと,数カ月程度で定期的に交換をしないと目詰まりしてしまうという問題があります.
 

 


 

星 岳彦

星研究室・植物生産工学
植物生産の新たな情報化標準UECS研究会