Interface編集部
2025年12月3日,ローデ・シュワルツが新オフィスを大崎にオープン
ローデ・シュワルツ・ジャパン株式会社は,日本市場への継続的な投資と顧客サービスの向上を目的として,本社機構を住友不動産大崎ガーデンタワーへ移転した.
〒141-0033
東京都品川区西品川1-1-1 住友不動産大崎ガーデンタワー20階


この移転に伴い,これまで埼玉県にあった修理・校正を担うサービスセンターも本社に統合され,業務効率化とシームレスなワンストップサービスの提供体制を確立した.新オフィスには,技術セミナを充実させるための大規模なセミナ・ルームと専用ウェビナ配信スタジオが整備され,最先端の技術情報提供を強化している.また,高度な計測機器を利用できる環境を提供することで,パートナ企業の製品開発を強力に支援する拠点としての役割も担うとする.
以下は開所式(2026年12月3日)における発表内容
●開会挨拶(アンドレアス・パウリー氏)

ドイツ本社より来日したプレジデント兼CTO(最高技術責任者)であるアンドレアス・パウリー氏(Mr. Andreas Pauly)が,開会の挨拶を行った.
▲企業実績と概況
・創業以来90年以上続く完全非公開(創業家一族が所有)の企業.
・前期(前事業年度)の売上は史上最高の31.6億ユーロ(5720億円)を達成.
・従業員は約15,500名.
▲イノベーションとR&D投資:
・イノベーションを非常に重視しており,売上の約20%をR&D(研究開発)に継続的に投資.
・直近では7億4,000万ユーロ(約1,300億円)をR&Dに投じており,最先端技術をサポート.
・R&Dだけでなく,M&Aも積極的に行っており,量子コンピューティング関連の「チューリッヒ・インスツルメンツ」や,レーダーシミュレーションソフトウェアの「fiveD」を買収した.
▲事業部門:
・Test & Measurement(計測関連)
・Technology Systems(防衛・セキュアコミュニケーション関連)
・Networks & Cybersecurity(ネットワークセキュリティ関連)
の3つの大きなビジネスを展開.
▲グローバル戦略と日本へのコミットメント
・世界60ヶ国以上に拠点を持ち,自社工場を所有することで迅速な製品供給体制を確保.今後5年間でさらに3億ユーロを工場拡張に投資する予定.
・日本はテスト&メジャメントだけでなく,防衛関連ビジネスにおいても非常に重要なマーケットであるため,今後も投資を継続.
・今回の新オフィスは,営業,アプリケーション・エンジニア,サービス・センタの機能が初めて一つのオフィスに統合され,お客様への貢献を強化.
▲日本市場の評価
・日本はイノベーションの中心地であり,ドイツ鉄道と比較して新幹線の正確さなど,日本のオペレーションの質の高さに感銘を受けている.
・トヨタ生産方式から派生した「Lean X」というプログラムを社内で採用し,顧客価値の最大化を目指している.
▲ローデ・シュワルツ・ジャパンのマイルストーン:
・2003年に東京オフィスを開設.今回の新オフィスオープンは,日本市場への継続的な投資とコミットメントを示す重要な節目となる.
・ビジョンは「Number One Choice for Customers」(お客様から常にナンバーワンに選んでいただける会社)を目指すこと.
●テープカット前の挨拶(ロバート・フローラー氏)

テープカットに先立ち,エグゼクティブ・バイスプレジデントのロバート・フローラー氏(Mr. Robert Froehler)が挨拶を行った.
フローラー氏は数年前にローデ・シュワルツ・ジャパンのマネージング・ディレクター代行を務めていた際,日本が素晴らしい国であり,巨大な経済力と,ドイツと共通する「細部へのこだわり」「イノベーションへの関心」を持つにもかかわらず,同社の日本でのプレゼンス(市場占有率)が十分ではないと感じていた.
そのため,同社を日本で前進させるという使命を負い,そのコミットメントを示すために,新しいオフィスを開設した.これは,同社が今後も長期にわたり日本市場に留まるという強い意思表示である.
成長戦略の一環として,新しいメンバを迎え,チームを強化した.新しいメンバが顧客やパートナとより緊密に連携し,サービスを提供していく体制が整いつつあると述べた.
同社は単なる製造メーカとしてだけでなく,顧客やパートナーと「真の協力関係(True Corporation)」を築くことを目指しており,相互のフィードバックを通じて,顧客のニーズに合った最先端の製品やソリューションを開発・提供していきたいとの考えを示し,協力を呼びかけた.
フローラー氏は集まった人々への感謝を述べ,開所イベントの成功と将来の成功を祈念し,挨拶を締めくくった.
●テープカットの様子

右から
マリオパウリー
ロバート・フローラ―
アンドレアス・パウリー
デューナス・パトリシオ
ラルフ・オルマニック
●パートナー企業講演1(エイターリンク:岩佐氏)

エイターリンク株式会社(Aeterlink Inc.)はスタンフォード大学発のスタートアップ.長距離ワイヤレス給電技術(最大17m離れた場所までワイヤレスで電力を伝送)を保有.創業当初からローデ・シュワルツに多大な貢献とサポートを受けている. |
▲長距離ワイヤレス給電(マイクロ波方式)
・近距離の電磁誘導方式ではなく,マイクロ波(920MHz帯のニアウェーブ)を利用した長距離給電に特化.
・レーザー方式は各国の認証取得が難しい中,マイクロ波方式で世界で唯一量産化に成功している企業である.
・送信機1台で最大100台以上の受信機に同時給電が可能.
▲創業時の背景
・共同創業者(田辺氏)がスタンフォード大学でメディカル・インプラント・デバイスの研究を10年間行っていた.
・従来の1/100サイズに小型化したペース・メーカを,体外からワイヤレス給電する技術がコア技術となっている.この研究は『Nature』や『Science』にも掲載された.
▲現在の事業領域:
1. ファクトリ・オートメーション(FA)事業(量産化済み)
2. ビルディング・マネジメント(BM)事業(量産化済み)
3. メディカル領域(研究開発中)
4. 物流・小売領域(一部量産化済み)
▲グローバル展開と資金調達
・現在6か国(米,加,タイ,独,日など)で事業展開中.今後数年で展開国を大幅に増やす計画がある.
・日本円で75億円超の資金調達を実施済み.売上の40~50%をR&Dに投じる,技術志向の企業である.
▲ローデ・シュワルツとの協業(コラボレーション)
エイターリンクは,グローバルでの展開を重視する中で,ローデ・シュワルツとの協業が極めて重要であるとし,以下の3つの側面を紹介した.
1. 事業における協業
・新オフィスでの製品導入: ローデ・シュワルツの新オフィスに製品を導入したことが,事業の初期トラクションとして重要であった.
・R&Dへの貢献: 同社のワイヤレス給電(微小電力)の測定環境が世の中にない中,ローデ・シュワルツの測定器と技術知見(ディープなご知見,プレ試験の実施など)が研究開発に多大な貢献をしている.
2. 国際標準化に関する協業
・既存のルールがない国際会議の場において,エイターリンクのような小さなスタートアップの発言力は小さい.
・今後は,ローデ・シュワルツがドイツ政府を経由して国際会議の場で協力し,ワイヤレス給電に関する新しいルール作りを共に進めていくことを希望している.
3. マーケティングに関する協業
・資金をR&Dに集中しているため,マーケティング費用が限られている.
・ローデ・シュワルツの展示ブース(例:マイクロウェーブ展)での製品展示協力を得ることで,新規顧客の獲得に大きく貢献してもらっている.
岩佐氏は,ローデ・シュワルツとの強い関係を今後も維持し,電力分野におけるWi-Fiのような革新を共に起こし,業界を盛り上げていきたいとの展望を述べた.
●パートナー企業講演2(マイクロウェーブファクトリー,櫻井氏)

マイクロウェーブファクトリー株式会社は無線通信の性能を評価し,電波の状況を可視化する製品を開発・販売する会社.アンテナ測定やRF評価のための電波暗室設備,およびその制御ソフトウェアを総合的に提供している点で業界では珍しい存在である.従業員数は約70名. |
▲ローデ・シュワルツとの協業
マイクロウェーブファクトリーは,ローデ・シュワルツとの協業により,顧客に総合的な測定ソリューションを提供している.
・八王子テストラボでの協業
・同社の八王子テストラボ(電波暗室を備える)に,ローデ・シュワルツの測定器(スペクトラム・アナライザ,ネットワーク・アナライザなど,40GHzまで対応)を完備している.
・この設備を利用し,ローデ・シュワルツと共同で測定サービス(試験,プレテスト)を提供している.
・ソリューションパッケージの開発:
・アンテナ測定(OTA測定)や電波測定において,ローデ・シュワルツの機器(CMWシリーズ,スペアナ,SGなど)を使った基本的な測定パッケージを共同で開発済み.顧客はスムーズに導入可能である.
・ミリ波帯(90GHz以上,6Gに向けて100GHz超)への対応も進んでおり,多額の投資が難しい顧客が試しに測定できる場を提供している.
▲ロボットを使った特殊な可視化システムの紹介
同社の代表的な製品として,ローデ・シュワルツのオシロスコープ(R&S RTOなど)を利用した電流可視化システムが紹介された.
・目的: 製品のESD(静電気放電)発生時やEMI(電磁妨害)問題発生時に,基板上を流れる電流を可視化するニッチなソリューション.
・機能: ロボットアームが基板上の電流を一つ一つ測定し,その結果をアニメーションで表示する.
・メリット: 経験豊富なベテランエンジニアが引退する中,経験の浅いエンジニアでも問題発生源をクリアに特定し,迅速な対策(部品変更など)を打つことをサポートする.
・今後の展開: このシステム(約1mサイズのロボット)は,ローデ・シュワルツの新オフィス内のラボにも設置し,デモやトライアルを含めた共同販売を計画している.この場合,オシロスコープの代わりにスペアナを接続することで,基板から発生するノイズの評価ツールとしても使用できる.
櫻井氏は,ローデ・シュワルツとのコラボレーションは日本国内にとどまらず,グローバルでの展開も目指していると述べ,今後も継続的な協力を期待する旨を伝えた.
●パートナー企業講演3(テクノサイエンスジャパン,山田氏)

株式会社テクノサイエンスジャパン(TSJ)は,約20年にわたりローデ・シュワルツ・ジャパンと付き合いのあるパートナー.EMC(電磁両立性)ソリューションのシステムインテグレーションを専門としている. |
▲協業の提案
山田氏は,新しい協業の取り組みとして「EMC対策ラボ」の開設を提案した.当初は物理的な電波暗室を備えたデモルーム(プランA)を新オフィスに築くことを提案したが却下されたため,今回は「バーチャルなEMC対策ラボ」(プランB)について説明した.
・背景: 顧客へのアンケートから,EMC適合試験で「測って終わり」ではなく,対策(ソリューション)の提供が次のテーマとして求められていることが判明した.
・目的: 最終的な適合評価だけでなく,その前段階である対策のノウハウ提供と市場開拓を目指す.
・対象顧客: 電子機器メーカ,自動車メーカ,通信機器開発メーカ.
▲主な活動内容
1. セミナの開催:
・TSJの著名なEMC技術者を講師として招き,ローデ・シュワルツのオフィスを借りて定期的に開催する.
・テーマ例
・エミッション・イミュニティ対策技術
・電源変動試験(特に自動車向け)
・サージ・バースト(インパルス)対策技術
・デスクトップでの簡易評価技術(電波暗室に持ち込まずにテーブル上で評価する手法)
2. 個別相談会の実施
・セミナ参加者などに対し,一歩踏み込んだ個別の技術相談会を実施する.
3. 対策専用ソフトウェアの開発と提供
・誰でも簡単にEMC簡易評価を行えるよう,ローデ・シュワルツの測定器と連携するEMC対策専用ソフトを開発した.
・このソフトは,スペアナなどの操作に不慣れな人でもオペレーション可能.ただし,最終評価ではなく,対策のしやすさを主眼に置いた簡易評価ツールである.
▲期待される効果
・顧客にとってのメリット
・開発製品の適合性向上.
・対策ノウハウの蓄積と継承.
・設計開発のコスト低減とスピードアップ.
・ローデ・シュワルツとTSJグループにとってのメリット
・最終判定の提案だけでなく,「対策」の段階から協力できるというイメージを顧客に持たせる.
・試作品評価や対策効果確認といった新たなEMC市場の開拓が可能になる.
山田氏は,この対策ラボを通じて,新しい市場とお客様との接点を拡大し,お客様に満足いただける場を作っていきたいと締めくくった.
●パートナー企業からの祝辞(ディーエスピーリサーチ,中西氏)

株式会社ディーエスピーリサーチ 代表取締役社長 中西 信 氏による挨拶が行われた.
中西氏は,同社が取り組んでいる特定の電磁波測定分野について説明し,ローデ・シュワルツとの技術的な関わりを示した.
▲エクスポージャー測定
・ヨーロッパでは非常に注目されている分野で,ディーエスピーリサーチもコンソーシアムに参加している.
・日本国内では5GHz帯までがSAR(Specific Absorption Rate:比吸収率)で評価されるが,ヨーロッパでは「エクスポージャー」(曝露)が重要視されている.
・この分野の測定は,高性能な測定器が1台では対応できず,バックアップ体制が必要であるため,複数の測定器を置いて対応している.
▲被ばく影響の懸念
・東日本大震災(福島)の事故を受け,特に女性が自分の子どもやペットへの電磁波の被ばく影響を懸念する声がある.この問題に対応するため,フランスの企業と共同で「エクスポージャーアライアンス」の活動を進めている(Bluetoothまで測れるような機械で対応).
▲ローデ・シュワルツ新オフィスへの貢献と提案
中西氏は,ローデ・シュワルツの新オフィス開設を機に,同社の技術や設備を東京・大阪近郊で活用する提案をした.
・神戸本社ラボの測定環境を顧客に提供しているが,今回のローデ・シュワルツの新オフィス開設を機に,ディーエスピーリサーチのソフトウェアや周辺機器をこちら(東京)にも持ち込み,顧客が神戸まで行かなくても評価できる環境を整備することを検討し始めている.
▲神戸への誘致
・国内顧客は神戸訪問の機会が少ないかもしれないが,海外顧客にとっては東京・神戸間の移動は大きな問題ではない.
・神戸は人が少なく,コンラッドやマリオットなどの新しいホテル建設も予定されており,海外顧客がゆっくりと過ごせる場所として,ローデ・シュワルツの海外顧客にも神戸へ足を運んでほしいと促した.
最後に約20年間ローデ・シュワルツにお世話になったことへの感謝を述べ,これからはDSPリサーチがローデ・シュワルツの新しい場所(オフィス)に貢献していきたいと述べた.
●最後に鏡開き

















