Interface編集部

2025年9月17日,SoC設計・製造プロセスの一部をハンズオンで体験するThe Gameスペシャルセッション レポート
2025年9月17日,The Gameスペシャルセッション at虎ノ門が,日本アイ・ビー・エム虎ノ門本社(虎ノ門ヒルズステーションタワー)で開催された.
主催は日本アイ・ビー・エム.協力はAIST Solutions/OpenSUSI,三菱UFJ銀行,RISE-A.
70名ほどの参加者があり,13のチームに振り分けられた.参加者は大学の先生や半導体企業,銀行,商社など多様な業界から集まった.
写真1 The Game会場.何をするのか分からないまま5,6名のチームに振り分けられた
タイムスケジュール
・13:30 開場,受付開始
・14:00 スペシャルセッション開始
・18:15 終了(予定)
・18:30 懇親会(希望者)
The Gameは,SoC設計・製造プロセスの一部を,ハンズオンで体験してもらうことが目的.SoC設計・製造プロセスは次の通り.
A,戦略・企画・計画
↓
B,要求解析・要件定義
↓
C,仕様見積もり,概略設計(ハイレベル・デザイン)
↓
D,詳細設計,論理設計
↓
E,物理設計,配置配線設計
↓
F,製造・前工程(回路形成)
↓
G,製造・後工程
The Gameはこのうち,B,C,Dを講義とハンズオンの組み合わせで学ぶ.
ただし,通常は8~12時間(1~2日)で体験するものを,本日は3時間で体験する.
そのためB,Cの一部だけを体験する.
●参加者の位置づけ
SoCのシステム・アーキテクトである.企画部門から上がってきた「設計依頼書」をもとに,SoCの基本設計(アーキテクチャ)を考案する.
以下,詳細をステップで紹介する
●1,アプリケーション・カード(設計依頼書)を受け取る
13のチームごとにアプリケーション・カートが配布される.
アプリケーション・カードには,
▲ターゲット・アプリケーション
ドローン用SoC
▲概要説明
1基のカメラを備え,4つのプロペラによる垂直離着陸可能なドローン用のSoC.作業者はコントローラでドローンを制御できるとともに,ドローンのカメラで取得された映像をスクリーンで見ることができる.
▲要求事項
開発コスト,チップ面積,消費電力,主要機能,外部インターフェース
が記載されている.アプリケーション・カードの中身は13チーム共に同じ.
写真2 商品企画部から来たとされる設計依頼書
●2 要求解析
要求解析はクライアントやユーザのやりたいことや,困っていることを深く理解し,その根本にある課題やニーズを洗い出すプロセス.
まず,個人作業で付箋紙に「XXXXできること」を7つ以上書き出す.
書き終わったら順番に自分が書いたアイディアを1枚ずつチームのメンバに説明して,説明した付箋をテーブル中央に貼る.
ほかのメンバは同じアイディアや近いアイディアを持っていれば,中央にある付箋紙の近くに自分の付箋紙を貼る.新しい案を思いついたら,その場で追加してもよい
写真3 要求の解析…360°撮影ができること,6Whの消費電力であることなどと記された付箋紙
●3,要件定義
要件定義は,要求解析で洗い出された「やりたいこと」を,システムとして実現するための具体的な機能や仕様に落とし込むプロセス.参加者は自分たちが作るSoCがどのような場面で使われるのかを話しあった.例えば,長野県の山岳救助の助け(遭難者を見つける)になるドローンとする.ターゲットを明確にすることで,必要となるカメラの解像度やフレーム・レート,CPUの処理能力,システムの消費電力などが明確になる.
●4,概略設計
▲要求解析で挙がった要求項目を具現化するハードウェアの選択
ここで,チームごとに十数枚のカードが配布される.カードには,GPIOコントローラ,I2Cコントローラ,Wi-Fi6,Wi-Fi4,Bluetooth5.2,カメラ用インターフェース,ディスプレイ・コントローラ,Wi-Fi+Bluetooth4.2といったタイトルと,概要説明,使用イメージが記されている.参加者は先ほどの付箋紙(要求解析の結果)を,このカードの近くに貼っていく.
写真4 概略設計…先ほどの付箋紙に記された要求を,機能ブロックごとに振り分けた
▲IPコアの選択
1からSoCを設計する手間を省くため,典型的な機能については,IPコアが用意されている.これもカードになっており,十数枚がチームごとに配布される.
CPUに関するIPコア・カードは5枚ほどあり,A社ハイエンドCPU,A社ミッドレンジCPU,A社省電力CPU,RISC-V CPU(開発中)などと記されている.ほかにもB社エントリーGPU,動画/静止画エンコーダ,動画/静止画デコーダ,AIアクセラレータ,DMAコントローラ,Flashコントローラ,LPDDR4メモリ・コントローラなどのカードが配布された.参加者は自分たちが定義したドローンの仕様に合わせて,IPコアを選択していく.
写真5 配布されたIPコア…急に高い専門性が求められ,戸惑う参加者も居た
●5,システム完成
4で選んだCPUやメモリ,カメラ・インターフェースと,3で選んだ無線やGPIOを組み合わせ,自チームのSoCが完成する.
写真6 チームごとにSoCの仕様がまとまった
●6,設計レビュー
システムのアーキテクチャやブロック間の連携,主要なIPコアの選定が適切かどうかを評価される.例えばCPU選択,圧縮エンコーダの選択,データ転送速度,バス構造,電源管理などが,技術的な実現性やコストの観点から妥当かどうかを判断する.
会場では,13グループのうちから2グループが,設計思想や工夫したところ,難しかったところを発表した.都度,IBMの技術理事がコメントをくれる.
写真7 設計レビュー…技術理事によるコメントに聞き入る参加者
●7,学んだことの共有
知識や経験を組織やチーム内で広めることで,個人だけでなく,全体の能力や効率を向上させる活動.会場では,良かったこと,学びを得たこと,期待すること,今後の要望・改善点を個々が記載し,その後,皆で共有した.
写真8 学んだことの共有により,全体の能力や効率が向上する