Interface編集部
1月28日,福岡工業大学がEVミニカートのレースを開催
福岡工業大学EVミニカート レース結果報告
Interface編集部
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福岡工業大学では,数年前から授業の一環としてEVミニカートの製作を授業に取り入れています(写真1).このEVミニカート(CQ出版)は1人乗りで,モータの手巻き,モータ駆動プログラムのマイコンへの書き込み,モータ・ドライバ・ボードのはんだ付けなど,学生の習熟度に合わせた開発を体験できます.
写真1 1人乗りで最高25km/hほどのEVミニカート.250W出力のブラシレス・モータを上手いこと回すのが学生達のテーマ
2022年1月28日,SPA直入(大分県竹田市,写真2)にて,福岡工業大学 工学部 電気工学科によるEVミニカートのレースが開催されました.
本記事ではその様子を報告することで,他の学校での授業への導入を検討いただくことを目的としています.
写真2 SPA直入は,1周1430mの反時計回り,高低差21.2m,9つのコーナーで構成される(大分県)
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カートのあらまし
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●授業の狙い
福岡工業大学 工学部 電気工学科では,授業の一環として「CQ-EVミニカート・レース」での優勝を目標としたカリキュラムが組み込まれています.レースへの過程を,従来の教育にはなかったような「実際の開発者や技術者が行っている仕事の進め方」に近いかたちで経験することで,主体的に考える力や協働する力を身につけていくことを狙いとしています.
●コース
SPA直入は,大分県の南西,久住の自然に囲まれたサーキットです.全長約1.5km,高低差が21m(最大斜度8.5%),大小9つのコーナと起伏に富んだコースです.EVミニカートにとっては,エネルギー消費の多い,坂を制することが,レースの勝因となりそうです.
●出場チーム…主に3,4年生
今回出走するのはA~Dの5チームです.A,Bチームは3年生,C,Dチームは4年生各3~4名で構成します.加えてCSチーム(クラス・サポータ,院生)が出走します.こちらは昨年,同コースの出走経験があります.
●EVミニカートの統一条件
各チームとも車体,タイヤ,バッテリ,モータは同じものを利用します.ただし,モータ・コイルの巻き方が異なり,2直3並列ないし3直2並列,ターン数を16~25前後で仕立てているようです.
モータ・ドライバ・ボードは,院生を除き,CQ出版が販売するキット付属の品を使っています.また,各チームとも走行データを取得するために,データ・ロガーや各種計器を搭載しています.
昇圧,電流制限,BMSとシステムが複雑になるにつれ,搭載部品,ジャンパ線も増えるなど,配線損傷のリスクも増えるのが気がかりでもあります.
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レース当日
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気温は12℃,1月下旬とは思えないほど温かく,風もなく遠くまでスッキリと晴れ渡った絶好のレース日和でした.13時20分,松尾先生のスタートの合図で,静かで熱い30分間が始まりました(写真3).
写真3 スタート前…記者もドキドキ
●上り坂につかまる3年生チーム
コースは,半時計回りに下りのホーム・ストレートから始まり,第3コーナを抜けると,長い登りの始まり・・・,いよいよここからが正念場です.残念ながらAチーム,Bチームはスタートから約700mにある坂を登りきることなく,パドックへ引き上げてきました(写真4).
写真4 長い上り坂…写真右はリタイアした3年生(遠くを見つめる)
●4年生以上は坂道をクリア
第6コーナに向け坂を最初に登りきったのは,Cチーム,実はスタート前の準備中に各車を見て回ったところ,このチームのみ,スプロケットを交換してギア比を変更していました.その後,CSチーム,Dチームと続きます.
●4年生のCチームが7周で勝利
2周,3周と各チーム慎重に周回を重ねているようですが,20分過ぎたあたりでDチームがスローダウンしました.しかし,今回は特別ルールでバッテリ交換も有りとのことで,バッテリを替えてコース復帰します.25分過ぎにはCSチームもバッテリ切れか,5週目途中の坂でストップし,カートを降りました.
残るDチームはと言えば,レース終了間際,坂の途中でいったん停止,バッテリの回復を待って電源再投入,最後の力をふり絞り7~8コーナ,下りの最終コーナを抜け,ゴール・ラインに入って来ました.
レース結果はCチームの7周,CSチーム4周,Dチーム3周,Aチーム,Bチームは残念ながら0周となりました(写真5).
写真5 優勝は4年生のCチーム!皆,頑張りました
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翌日の報告会
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翌1月29日,報告会の会場となる湯布院高原の福岡工業大学セミナーハウス周辺は,午前9時の時点で気温4℃と,昨日とは打って変わり,どんよりと曇った冬空となりました.昨日のレース結果を踏まえ,今期のプロジェクト成果発表の場となりました(写真6).
写真6 結果報告会で他者から学ぶことも大切
●3年生Aチーム…工夫はてんこ盛りだが厳しい現実に直面
Aチームは2021年10月の筑波サーキットでは完走の目標を掲げ,モータの巻き線仕様を変更しました.80Km/h(無負荷時)の3直2並巻きから,100km/h超えの2直3並へと変更しました.さらに,MOSFET放熱対策としてヒートシンクの増設を行いました.加えてコネクタやケーブルの断線対策を徹底(写真7)し臨んだものの,22分過ぎから電圧降下,25分過ぎにあえなくストップ,完走とはなりませんでした.
この反省を生かし,SPA直入では30分間,バッテリを持たせるようにMOSFETの変更,配線の見直し,モータを巻き直し,12~24Vの昇圧回路を取り付けました.さらに,トルクを変更できるようにし,こだわった作りこみを行いました.
写真7 配線が綺麗だったAチーム
しかし,現実は厳しく,モータのセッティング・ミスによるトルク不足で,最大斜度8.5%の坂を登りきることはできずに終わってしまいました.
3年生ですから,来年の巻き返しに期待したいです.
●3年生Bチーム…チームでの十分な作り込みができず
BチームはAチームと同じように,コース半分の登り坂付近でストップしてしまい,リタイアとなりました.昨年の筑波サーキットでは5周目まで順調に周回を重ね,20分時点でバッテリ切れによるリタイアとなりました.
今回は配線によるトラブルを減らすため,リード線の引き直しやデータ・ロガーの設置場所変更を容易にしたりと,工夫を重ねました(写真8).
写真8 配線トラブルを減らすために綺麗にボードを並べたBチーム
ところが巻き線変更時の過電流と思われるFET破壊,IC周りのパターン断線などトラブルが多発し,学内での走行会に参加できず,走行データの蓄積不足もあり,バッテリ充電ノウハウを学んだにもかかわらず,坂を克服することができなかったそうです.
このプロジェクトを通じて,チームで仕事をすることの必要性を感じたそうです.
●優勝した4年生Cチーム…速度を犠牲にしトルク・アップが奏功
次の発表は優勝したCチームです.筑波サーキットでは30分間走り切れなかったので,SPA直入では完走を目指したそうです.筑波サーキットにおいて学生部門で優勝した先輩の倉重さんの車体を参考に,登り対策を考え,昇圧だけでなく,電力回生システムの導入を試みたものの,プログラミングがうまくいかず断念,考え方を変えて,機械的部分の改善を検討の結果,ギア比とトルク値の変更を試みたそうです.
具体的には,従来のスプロケット比を60:16から70:13と変更,前後のスプロケットをトルク値3.75倍から5.38倍に変えたそうです(写真9).数値上では1.34倍のトルク値アップとなります(そのぶん最高スピードでは不利となる).
写真9 大きなスプロケットを使用したCチーム
他のくふうとして,下り坂では電流消費を抑えるため,スロットルをあまり開けないよう走ることを考え,また,ボディ剛性の強化を図るため,フレーム中央に木製のタワー・バーを設置したそうです.
レース本番は,1,2周目は様子を探りながら慎重に走行,下り始めはスロットルをゆっくり開け,徐々にスピードを出し,起伏がないところでは10km/H程度で走行,登りはかなりスロットルを開けたそうです.
コース取りは,最短ラインのインベタで走り,20分過ぎ6周目あたりで周回スピードが下がりだし,25分過ぎ7週目の坂のピーク手前でいったん休止….バッテリの回復を待ち,残りぎりぎりのところで電源を再投入,何とか坂をこなし裏のスプーンカーブから,最終コーナを抜け見事優勝と相成ったそうです.
最後に,このプロジェクトは普通の授業では得られない達成感があった,諦めない気持ちが大切だと感じたそうです.
●4年生Dチーム…プログラム変更を試みるが時間切れ
4番手の発表はDチームです.筑波サーキットでは,昇圧回路の電圧の上がり過ぎによるバッテリ消費を抑えるため回路を見直し,下り坂でのバッテリ・ロスを防ぐためスロットルを開けないよう可変抵抗を変更したそうです.これらの工夫は結果として,ノイズとスパークのトラブルで元に戻すことになったそうです.さらにプログラム変更を試みたものの時間切れで納得のいくセッティングができなかったとのこと(写真10).
写真10 時間切れで納得のいくセッティングができなかったDチーム
SPA直入のレース本番では,4分時,9分時,20分時,いずれも登り坂で大きく電圧の消費が見られ,結果,20分過ぎ特別ルールでバッテリを交換してレース完走したそうです.
下りが多かったので電力回生システムを取り入れ,登坂でパワーを出したかったとのこと.
最後に,プロジェクトを通して,試行錯誤することと,チームワークが大切と感じたそうです.大きな達成感が得られたとも語ってくれました.
●院生のCSチーム…モータの作り込みをMATLABで
院生のCSチームは,SPA直入に合ったモータを作るべく,モータの巻き線を検討するところからスタートしたそうです.MATLABでモデルを作り,シミュレーションと実機での測定を繰り返しました.結果,2直3並,ターン数23から,2巻き増やして25ターンとしたそうです.なお,実機で測定を行った際に,モータ・ドライバ・ボードを壊してしまい,修理に手間取り,最後の詰めができなかったことが悔やまれるそうです.本来であれば,鉛バッテリ+キャパシタのシリーズ・ハイブリッド方式の電力回生システムを作りたかったとのこと.
写真11 院生チームはモータ・ドライバ・ボードやマイコン・ボードを自前で準備.ベテランの安定した走りを見せてくれた
レースは,4周までは順調に周回を重ねたものの,29分ころ,5周目の坂の途中で電圧降下,ここでコースを後にすることになりました.
●取材を通して感じたこと
学生は,時間,予算,コミュニケーションの機会(コロナ下のため)が限られた中で,1つの目標に向けて創意工夫を凝らし,チーム一丸となって取り組んでいたことが印象的でした.
思うような結果が出せず,残された時間と戦いながら,トラブル解決のため頑張ったことは,社会に出てからの大きな力になるでしょう.
●イベント詳細
▲主催
福岡工業大学 工学部 電気工学科
エンジニアリングデザインⅡ
▲大会名
CQEVミニカート
第2回SPA直入大会
▲レース日時場所
1月28日(金)13:00~14:00
大分県竹田市 SPA直入
▲報告会日時場所
1月29日(土)10:00~11:30
大分県湯布院市 福岡工業大学 セミナーハウス
写真12 福岡工業大学の学生…継続は力なり,頑張ってください