Interface編集部
作物とヒトとのインターフェース
農業センシングの世界
その4… 屋外や温室の「湿度センシング」が重要な理由
湿度センシングが重要な理由
●一般にいう大気の組成
植物や私たちヒトなどの陸上生物は,地球の空気に囲まれて生きています.空気の主成分は,小数第1位を四捨五入してしまうと,
窒素:約78% 酸素:約21% アルゴン:約1% |
です.合計すると100%になってしまいます.つまり,それ以外の成分は微量なのです.
植物の餌である二酸化炭素は,0.04%しか含まれていません.これらの組成は,生物や火山ガスなどの影響がなければ,地球のどこでもほぼ一定の値です.
●実際の空気の重要変動要素「水蒸気」
ところが,この成分では示されていない,地球の大気の変動成分があるのです.それが水(水蒸気)です.先ほどの成分組成は,乾燥空気のものです.自然状態では,砂漠などの極端な乾燥地域を除いて,乾燥空気は存在しません.乾燥空気にプラスする形で,必ず水が含まれます.これを湿り空気と呼びます.
●水蒸気は「魔物」…温度にまで影響を及ぼす
地球の空気に水が含まれ,それが変化することによって,雲が湧いたり,雨が降ったり,さまざまな気象現象が起きます.さらに水は,氷,水,水蒸気と,その姿を変えるときに大きな熱エネルギーを吸収したり放出したりします.これが,湿り空気の中にある物体の温度と,その気温に大きな影響を及ぼします.
湿り空気には,水蒸気という目に見えない魔物が住んでいます.その魔物を見える化して,うまく手なずける作戦を立てるのに大切なのが,湿度センシングです.
「湿度」のおさらい
●(1)私たちが普通に使っている湿度「相対湿度」
例えば,1気圧25℃の乾燥空気があると,その空気の重量に対して最大2%程度の水蒸気を含むことができます.この最大の水蒸気が含まれている状態が,湿度100%になります.
湿り空気の中で,目いっぱい含まれる水蒸気の圧力を飽和水蒸気圧と呼びます.水に砂糖を溶かすとき,水温が高いほどよく溶けるのと同じで,気温が高いほど,飽和水蒸気圧は大きくなります.
この飽和水蒸気圧に対して,測定する空気に含まれる水蒸気の圧力をパーセントで示したものが,私たちが普通に使っている湿度の値になります.相対的な値なので,正式には相対湿度と呼びます.
今ここにある湿り空気の気温を変化させると,その空気に水の出入りがなくても相対湿度は変化します.例えば,20℃ 60%の湿り空気を25℃にすると,相対湿度は約44%になります.
●(2)湿り空気中の水の量を知りたいときの「絶対湿度」
相対湿度は気温が変わるだけで値が変化してしまうので,さまざまな気温の湿り空気に含まれたり,出入りしたりする水の量を知るには不便です.そこで用いられるのが絶対湿度(混合比)です.
乾燥空気1kgに含まれる水の重量をkgで示します.kg kg’-1という単位で示します.例示した20℃ 60%の湿り空気の絶対湿度は,約0.0087 kg kg’-1になります.この値は,25℃ 44%の湿り空気でもほぼ同じ値になります.
1気圧20℃の乾燥空気1kgの体積は,約0.843m3なので,この湿り空気1m3には,約10gの水が含まれていることになります.
絶対湿度を使えば,気温の違う湿り空気を混合したときの水分量や,あと何gの水を蒸発させて含ませることができるか,などを簡単に計算できます.
●(3)結露を知りたいときの湿度「露点温度」
冷たい水をコップに入れると,表面に露が付きます.冬,寒いところで車を運転するとフロントガラスが曇ります.これは,湿り空気が冷やされて,飽和した(溶けきれなくなった)水蒸気が水として出てくる凝結(結露)と呼ばれる現象です.
植物を育てるには結露(露点温度)ウォッチは重要
植物は,雨が降っていなくても,高湿度の空気の中で葉や果実が濡れていることがよくあります.写真1のように植物から分泌された水で濡れることがありますし,湿り空気の結露で濡れることもあります.
写真1 植物は湿度の影響をモロに受けるのでセンシングが重要
根からの水の吸い上げが盛んで湿度が高いときには葉の縁にある水孔(すいこう)から余分な水が排出される溢泌(いっぴつ)現象が見られる.作物はキュウリ
植物の濡れは,病害発生の大きな原因になります.湿り空気の気温を何度まで下げると結露が発生するのか,それを示す湿度の指標が露点温度です.湿度が高いほど露点温度は上がります.これらの各種湿度の値は,湿度センサから得られる相対湿度と気温から求めることが可能です.
JavaScriptで換算プログラムを記述した筆者のウェブ・ページ(図1)などを使って簡単に求められます.
図1 湿度をセンシングすれば露点を計算してくれるウェブ・ページなどもある
空気に含まれる水(湿度)と植物生産のウェブ・ページ https://www.hoshi-lab.info/env/humid-j.html
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湿度センサは今では写真2のように安価で小型のものがいろいろあります.
写真2 昔は高価で大きかった湿度センサも最近では数百円で入手できて小型になってきたのでIoT 農業にもいろいろ生かせそう
左からCHS-MSS(TDK),SHT75(センシリオン),SHT15(センシリオン)と防湿キャップ(上),SHT21(センシリオン),AM2302(Guangzhou Aosong Electronics),SHT31-DIS-B(センシリオン)をマウントしたキット
次回は,中でも低価格(秋月のキットが1,000円以下)でオススメの「SHT31センサ(写真3)」の基本的な使い方を紹介します.
写真3 次回使い方を紹介するオススメSHT31-DIS-F
昔は5万円くらいしたものが今では1 個762 円.しかも,相対湿度0 ~100%で± 2%,気温0~90℃で±0.2℃と高精度で,2.5mm角と小型