スポーツ・センシング for2020 第3回 
相性ピッタリ! 高精度加速度/ 角速度センサでゴルフのスイングを測る

●ゴルフなどのスイングは3軸加速度/ジャイロ・センサで測りやすい

筆者の研究室とセイコーエプソンはゴルファ向けのウェアラブル・センサM-Tracerを開発しました(図1).

図1 3軸加速度&角速度センサでゴルフのスイングを解析
筆者の研究室とセイコーエプソンで共同開発した.

インパクト:ターゲット方向を基準としたフェースの向き.
回転:トップ時のシャフト軸周りの回転角度.
テンポ・リズム:バックスイング時間÷ダウンスイング時間.
ナチュラルアンコック:ダウンスイング中の最大グリップ・スピードとインパクト時のグリップ・スピードの減速比率.腕のエネルギーをどれだけシャフトに移せたかという指標(力学量ではない).

M-Tracerには,3 軸加速度センサと3 軸ジャイロ・センサが内蔵されています.ゴルフ・クラブのシャフトに取り付けてスイングします.本器を用いることで,以下が可視化されます.

・スイングの軌道
・衝突時のフェース角度
・腕からクラブに伝達したエネルギー

運動の力学モデルを表す数式には加速度の項や,角速度の項が現れます.3軸加速度/ジャイロ・センサは,これらの量を直接計測できることから,運動の力学計算に向いています.
このセンサ・デバイスは,「どうもスイングの調子が悪いけど,どこが悪いのかな?」,「強く振っているのにどうもヘッド・スピードが上がらないな」といったゴルファの悩み解決が目的です.ヒトの運動をモデル化し,実際に多くのゴルファを被験者として検証実験する,という地道な作業を経て完成しました.

●キー・デバイス:水晶MEMSによる高精度ジャイロ・センサ

ゴルフ・クラブとボールが衝突する際に,フェース面が少しでもずれていれば,飛球方向は大きく違ってしまいます.この計算には精密な角度計算が必要です.
クラブ・ヘッドの姿勢推定は,ジャイロ・センサによる角速度の積分によります.得られた姿勢角度を手がかりに,加速度の重力成分を取り除いたものを積分することでクラブ・ヘッドの軌道を求めます.
セイコーエプソンは発振器がベースの水晶加工技術を持っています.同社のジャイロ・センサは,極めて高精度で,これまでの超音波音叉型ジャイロ・センサに比べて格段にノイズ特性や,温度特性などが改善されています注1 注2.この精密なジャイロ・センサが製品化されたことによって,ゴルフ・スイングの精密計測が実測したといっても過言ではありません.

注1:低ノイズ:0.005(°/s)/ Hz.他社は例えば0.02(°/s)/ Hz.温度特性(-40 ~+80 ℃):±0.2°/s.他社は例えば-50 ~+ 100°/sとばらつく.
注2:同社では水晶加工技術とセンシング技術とが結びついたものをQMEMSと呼んでいる.QMEMSは水晶技術の「Quartz」と微細加工技術の「MEMS」を合わせた造語.

 


 

仰木 裕嗣

慶應義塾大学  大学院政策・メディア研究科  政策・メディア専攻