Interface編集部
スポーツ・センシング for2020 第34回
圧力感覚への刺激「振動」による 情報のフィードバック&指示
● 圧力感覚への入出力「ハプティック」
前回は,スポーツ選手などにリアルタイムでセンシング情報などをフィードバックする方法として音や電気刺激があることを紹介しました.今回はもう1つの可能性である圧力感覚によるフィードバックです.
ハプティック(Haptic)という言葉は,ユーザ・インターフェースの分野では,主に圧覚による入出力デバイスといった意味で用いられています.つまり人の圧力感覚へ刺激を与えて情報をフィードバックする装置や方法のことです.
カメラや3Dスキャナによって体を撮影したり,スキャンしたりしてみても,硬さはその見た目からは分わかりません.触ってみて初めてその硬さが判明します.「肩凝ってるねえ」というのは触れてみて分かることで,「ツボ」を押してあげることで本人が気持ちよく反応する,まさにこれがハプティックです.
● ハプティック①…ヨガの姿勢を振動で教える
そのようなハプティック・デバイスの1つにNADIX Yoga Pants(Wearable X 社)があります.これは,ヨガ専用のタイト・ニット・ウェアの5カ所に,振動するアクチュエータを備えたものです(1).
膝の裏にBluetoothによる通信機能を内蔵したコントローラ兼バッテリを取り付けて使います.このコントローラから振動するアクチュエータまでは導電繊維が使われています.スマホのアプリで30種類程度のヨガポーズから好きな物を選ぶと,ポーズに応じて「この筋肉が伸びているはずですよ」とあたかもインストラクタが言っているかのように,伸ばすべき筋肉の箇所が振動します.どこが伸びていればよいのかよく分からん,というヨガ受講者のニーズに応えた製品ですが,爆発的に売れたそうです.
● ハプティック②…振動で教える犬のしつけ
犬をしつけるとき,お手がうまくいったときに,「よくできたね」と頭をなでたり,体を軽くたたいたりというのはよく行われることだと思います.動物への「よくできたね」は,飼い主さんが行うハプティックな行為です.
ネゲヴ・ベン=グリオン大学(Ben-Gurion Universityof the Negev)の研究者は,ハプティックを使って犬を飼いならしています(2).Vibrotactile Vestと名付けられた犬用のベストには,直径10mm厚さ3mmの偏心モータ(ERM)が4個装着されています(図1).これらのモータの振動によって,「その場で回れ」,「こっちに来い」,「伏せ」,「下がれ」といった4つの命令を犬に伝えられます.
偏心モータは皮膚の上から押さえつけるための治具に包まれています.治具には直径5mm,高さ7mmの突起が8つ飛び出ており,犬のフサフサした毛の上からでも皮膚に振動を与えることができるように工夫されています.
犬が装着するデバイスの総重量は440gですが,これは犬が背負える重量が体重の10%という知見から設計されているそうです.
ベストに取り付けられたコントローラは,433MHz帯を利用した無線通信が行えます.2.4GHzのBluetooth通信などと比較して障害物のある場所でもつながりやすいものと推察されます.
このデバイスによって,人が言葉を発しなくても,犬に対して命令ができるわけです.障害者がこれを使って指示を出すこともできますし,軍事犬に声を出さずして命令をするような使い方も容易に想像できます.
□参考文献□
(1) NADI X Yoga Pants,https://www.wearablex.com/pages/how-itworks
(2) Yoav Golan,Ben Serota,Amir Shapiro,Oren Shriki,Ilana Nisky;A Vibrotactile Vest for Remote Human-DogCommunication, 2019 IEEE World Haptics Conference(WHC),July 9,2019.
仰木 裕嗣(Interface2020年6月号 p.138より転載)