スポーツ・センシング for2020 第36回
特許から読み解く世界の技術動向

● 12 年間の特許の動向が公開されている

東京オリンピック・パラリンピックを見据えて,2019年に特許庁が行ったスポーツ関連技術に関する特許出願技術動向調査が公開されました(1).この調査は,その時々でトピックとなる産業や技術に関する世界的な動向に合わせて毎年行われています. 今回公開されたものは日本,米国,EU,中国,韓国,台湾のあらゆるスポーツ関連特許を,2006年から2017年のおよそ12年間について調査しています.特許だけではなく関連する学術論文からも技術動向を探っています(図1). 若干のタイムラグはあるものの,この調査結果からおよそ10年スケールでの世界の動向が見えてきます.スポーツに関連する特許には用具などもあるのですが,調査は主にスポーツICT関連特許を対象としました.実は筆者はこの調査のアドバイザリーボードの座長として関わりました.
● センシング技術が右肩上がり

スポーツ関連技術を活用する目的は,競技スポーツ,レクリエーション・スポーツ,健康スポーツに分けられます.場所や種目はさまざまです.特許対象技術としては,センシング,解析,提示に分けられます. 調査期間内に大きく飛躍したのは,本連載のテーマでもあるセンシングです.半導体技術の発展,カメラ性能の向上などが後押ししてセンシングのさまざまな活用が提案されています.国内の2018年におけるスポーツICT市場はおよそ,898億円でしたが,2025年には9703 億円にのぼるであろうと予測しています. もちろん新型コロナウイルスによる影響でオリンピック,パラリンピックが延期となり,予測はこのまま受け取れませんが,特にエンターテインメントとしてのスポーツの価値を高める技術開発が,猛烈な勢いで進んでいます.既に野球中継では球場に行かなくても好きな座席から試合を眺められるバーチャル・リアリティを活用したVRチケットも登場しています.コロナウイルスによってオンラインでさまざまな活動をすることが当たり前になってしまったことを踏まえると,VRチケットはこの1,2年ほどで世界的に急速に
普及するはずです.

● 今後のトレンド…選手の診断やコーチングAI

次の10年間で最も進化するであろうスポーツ関連技術特許は,AIによる診断/コーチングでしょう.プロ野球でも中継映像だけから選手の動きを解析してパフォーマンスの向上やけがの予防につなげるというサービスも始まりました(2).選手の安全や安心を担保する意味でのスポーツITの活用は,プロスポーツの世界で急速に普及してきています.スポーツ×ITの世界は遠隔コーチングや,選手の行為やスキルを定量化するエビデンス・スポーツ・コーチングの時代にまさに突入しようとするところであろうと筆者は思っています.どんなスポーツのどんなセンシング技術がまだ未開拓かということに興味を持った読者の方はぜひ調査報告を一読ください.

□参考文献□
(1)令和元年度特許出願技術動向調査 結果概要 スポーツ関連技術,2020 年2 月,特許庁.
https://www.jpo.go.jp/resources/report/gidouhoukoku/tokkyo/document/index/2019_02.pdf
(2)野球における姿勢推定AIアプリケーション「Deep Nine」,電通.
https://www.dentsu.co.jp/news/sp/release/2020/0601-010059.html

 

仰木 裕嗣(Interface2020年8月号 p.153より転載)