農業センシングの世界
作物とヒトとのインターフェース
その2…測るもの:植物体内の化学変化
道具:温度(気温)センサ

作物を育てるときに気温が重要な理由

  作物を育てる場合,その環境を知ろうとするならば,まず温度計を設置するのが普通です.最も基本的な環境計測項目は気温です.「この植物は気温○○℃程度で栽培しましょう」などと,作物栽培の本にはよく書かれています.これは,どうやって決められるのか,メカニズムを解説していきます.

 

●光合成速度は気温で決まる

  図1は,葉の温度を変えたときの光合成速度の変化の模式図です.このカーブは作物の種類によって変わります.一般的に,温度の上昇とともに比例的に光合成速度が上昇していき,ある温度を超えると急に低下する,酵素反応に特有のパターンになります.このグラフのピークの25 ℃程度が,天気の良い昼間,この作物が光合成をするのに最も適した体温になります.

 

図1 植物の葉の温度と光合成速度には相関がある

 

  恒温生物とは違い,植物の体温は,一般に気温とほぼ等しくなります.そこで,気温を計測・制御することは,体内の酵素反応の状態を管理するのに重要であり,作物を管理する上で意味があるのです.

 

温度センサ

●その1:JIS-T 型熱電対

  作物栽培や温室の環境計測制御の研究に,初期から最もよく使用された温度センサは,JIS-T型熱電対です(表1).熱電対はゼーベック効果を利用したセンサです.図2のように異種金属を接合した2点の温度差に比例した電圧が発生し,その電圧を計測することで温度を測定できます.
 

表1 JISで規定される主な熱電対の仕様


 

図2 温度センサその1:JIS-T型熱電対

 
 JIS-T型熱電対は,金属1に銅,金属2にコンスタンタン(銅およびニッケルを主にした合金)を用いています.温度差が25℃のときに,約1mVの電圧が発生します(表2).
 

表2 JIS-T 型熱電対の熱起電力(出力電圧)

理科年表より抜粋


 
  写真1のような線径約0.3 mmの被覆電線のタイプですと約130円/mです.冷接点温度補償付きの電圧測定器から計測場所まで,この電線で配線して,先端の被覆を取ってねじって接触させ,はんだ付けしておけば,その点の温度を測定できます.
 

写真1 温度センサその1:JIS-T 型ビニール被覆熱電対ケーブル

 
 線径約0.1 mmの細いものを使用すると,センサ自体の熱容量がとても小さくなり,太陽放射環境下での気温計測や,貼付して葉温計測に使用できます.
 

●その2:サーミスタ

  農家の温室の環境制御装置などによく使用される温度センサはサーミスタです.サーミスタは,温度によって電気抵抗値が大きく変化する半導体です.価格は,高精度タイプの103AT(写真2表3)で1 個200円程度です.
 

写真2 温度センサその2:103AT 型サーミスタ

 

表3 103AT 型サーミスタの主な仕様

SEMITECデータシートより抜粋

 

  図3に示した回路例で出力される電圧を,リスト1のプログラム例で簡単に温度に変換できます.
 

図3 温度センサその2:サーミスタ&回路

 

リスト1 サーミスタを使うときの関数

Arduino用


 

●その他

  この他にも,白金抵抗体センサ,IC温度センサなどがありますが,温度測定のみの場合,価格や耐環境性の点から,作物生産の分野ではあまり使用されていません.
 実際の気温モニタを写真3に示します.
 

写真3 温室で実際に設置されている温度等のセンシング装置

 


 

星 岳彦

星研究室・植物生産工学
植物生産の新たな情報化標準UECS研究会