スポーツ・センシング for 2020
第1回
加速度センサで打撃力センシング

  本誌2016年9月号の特集記事「ウェアラブル人間センサ入門」の記事を書いたのをきっかけに,本コーナを担当することになりました.本コーナでは,スポーツ分野,ヘルスケア分野を中心に,人間センシングをテーマにした話題を取り上げます.
 

●私の研究の源流…なんと20年前に加速度センサ付き腕時計

  初回は筆者がヒトのセンシング分野に興味を持ったきっかけをお話しします.筆者はかつて腕時計に関連した研究に携わりました.CASIO CYBERMAX JG-300がそれです(写真1).加速度センサがヒトの動きを物語ってくれることを教えてくれたこの腕時計を筆者は今でも大切に保管しています.

 

写真1 当時としては画期的…筆者も開発に携わった20年前の加速度センサ付きCASIO CYBERMAX JG-300

 

  JG-300には1996年当時としては画期的な加速度センサが内蔵されており,パンチ動作のパワーとスピードが計測されて表示されます.筆者は本当に打撃した際の手首の加速度と衝撃力にはどのような関係があるのかを調べていました.

 

●加速度波形から空手家やボクサの打撃力推定

 当時の世界一流空手家から筆者を含む素人まで,多くの人を被験者にしてパンチ実験を行いました(写真2).
 

(a)フゥー…        (b)ハッ!
写真2 空手家のパンチ力を加速度センサで取得

 

  そこで分かったことは,手首に取り付けられた加速度センサ注1(腕に沿った方向に軸が向いている)には,ボクシングや空手などの種目による波形の違いがあって,その波形の違いを元にすれば,非常に正確に打撃力を推定できるというとても面白い結果でした.
  パンチは0.2秒程度で終わる短い動作ですが,その間の手首の加速度は図1のように格闘技間で異なります.

 

図1 パンチ直前の手首加速度は格闘技の種目によって異なる

 

  高速度カメラやモーション・キャプチャがない研究室でしたので詳しくは分かりませんでしたが,空手の場合には非常に素早いすり足で前進してから突き出すために,最初の小さな山はその体全体の推進によるものと思われます.対してボクシングの場合はガードをした状態からまっすぐにパンチを繰り出すために,山が1 つだと推察されます.
 

*   *

 

  以降,20年にわたってさまざまなスポーツや運動のセンシングに取り組んできましたので,このコーナではその経験で得られたヒトのセンシングにおけるノウハウやちょっとした工夫などを紹介したいと思います.

 


注1:加速度センサは「圧電型加速度トランスデューサー702FB/ST」(ティアック).
 

仰木 裕嗣

慶應義塾大学  大学院政策・メディア研究科  政策・メディア専攻