2022年5月号 特集「データサイエンス入門」特設ページ

目次ページはこちら

ご購入はこちら

電子版のご購入はこちら

特集の概要

●IoT時代の組み込み開発では…データ・サイエンスが武器になる!

 ここ数年,データ・サイエンスは大きな注目を集めています.その背景には,エレクトロニクス分野の最前線であるIoT(Internet of Things)が密接に関係しています(1).IoT機器の開発には,機器の自動制御に必要な情報の元になるデータの計測・分析・活用が要求され,データ・サイエンスの知識を持つ組み込みエンジニアの活躍が期待されています.

1 IoTシステムの開発にはデータ・サイエンスの知識が必要だが組み込みエンジニアには未知の領域

 

●なぜデータ・サイエンスの知識が求められる?

▼サーバ・サイドのエンジニアとの連携が重要に

 センサなど計測した膨大なデータの分析は,ハードウェア資源の限られている組み込み系で実行することは困難です.多くの場合,計測したデータは大規模なデータ処理が可能なサーバに送られ,サーバの内部でデータ・サイエンスの知識を活用した分析が行われます.このように,IoT機器の開発では組み込みエンジニアとサーバ・サイドのエンジニアとの連携が必要になります.

 しかし,ハードウェアの制約を常に意識して行う組み込み開発と,豊富な計算資源を有するサーバ・サイドのウェブ開発では,プログラミングに対する考え方や開発の進め方の文化の違いがあります.同じソフトウェア開発でも相互理解を深めるための取り組みや姿勢が欠かせません(2).

2 これからはサーバ・サイド・エンジニアやデータ・サイエンティストとの相互理解を深めることが重要

 

▼これからはデータ・サイエンスの知識が強みに

 これと同じことがデータ・サイエンスにも言えます.組み込みエンジニアがデータ・サイエンティストと協力して開発を進める場合,計測したデータをサーバ・サイドでどのように分析するかきちんと理解した上で組み込み機器の設計・開発を行うことが重要です.

 言い換えれば,IoT時代の組み込みエンジニアはマイコン・プログラミングのスキルだけでなく,データ・サイエンスの知識を活用することで,適切なデータ計測が可能になるような組み込み機器の設計・開発ができることが大きな強みになります(3).

図3 データ・サイエンスの知識はIoT時代の組み込みエンジニアにとって強力な武器になる

 

●特集では身近な物で収集したデータの分析を体験

 組み込み開発でデータ・サイエンスの知識を役立てるには,元となるデータの集め方や,集めたデータをどのように加工して分析すればよいかが分からないという壁が立ちふさがることもあります.

 そこで特集では,センサで収集した時系列データなどをPythonで分析する方法などを紹介します.どの事例もPythonプログラム付きなので,すぐに追体験できます.ぜひ,この機会にデータ・サイエンスを理解して使いこなせるようになってみてはいかがでしょうか.

 プログラムは次のページから入手できます.

https://www.cqpub.co.jp/interface/download/contents2022.htm

 

各部のダイジェスト

●第1 現場体験1…姿勢センサ×ディープ・ラーニングでサイコロの出目予測

 姿勢センサを使ったサイコロ出目予測に挑戦します.まず初めに,6面体サイコロで初回バウンド前の3軸加速度と各速度過渡応答から最終出目を推定できるか挑戦するのですが,現実の生々しいデータは教科書のように甘くないということを思い知らされます.

写真1 サイコロの出目をデータ・サイエンスの力で予測するべく製作したIoTサイコロVer1.0

 

 6面体サイコロで味わった挫折をもとに,えんぴつ型サイコロで出目予測に再挑戦します.結果として精度85%程度のAIモデルを構築することに成功しました.最終的には,AI推定はマイコン内(M5Stack)で行い,スタンドアロンで動かします.

写真2 えんぴつ型のIoTサイコロVer2.0

 

写真3 前処理とAIモデルをマイコン・ボード(M5Stack)に実装してスタンドアロン推論しているようす

<Predict>が予測出目.予測確度に応じて青>>>赤で出目予測.過去左から表示されている

 

●第2 現場体験2…センサ×AIで酒蔵の匠の技を覚える

 熟練の日本酒職人の温度管理術を温度データから分析・モデル化する過程を紹介

します.日本酒造りの工程の1つである「米こうじ造り」では,温度管理が重要です.温度が高くなりすぎたり,低くなりすぎたりすると,良い米こうじを作る事ができません.特定の温度推移得るのが良い米こうじを造る秘訣です.

写真4 米こうじの製造工程…こうじ菌(もやし)をふりかけている様子

温度を管理しながら約3日かけて米こうじになる

 

 ある程度温度が上がったら,手を入れて米こうじをかき混ぜたり広げたりすることで温度推移を調整する必要があります.ここが日本酒職人の最大の腕の見せ所です.米こうじは生き物であるため,毎回同じように作業しても同じような温度推移を見せません.毎回が初挑戦のような感じであり,素人が一朝一夕で習得できる技術ではありません.

 そのため,第2部では米こうじ造りにおける温度推移のデータを分析して,非熟練者であっても米こうじの温度管理ができるよう業務を支援する「温度を下げるタイミングを通知するAI」の開発に挑戦します.

4 第2部でやることのイメージ

<第3部以降のダイジェストは近日中に公開します>