Nordic Tech Tour Japan 2026レポートその1 ノルディック・セミコンダクターの製品群

ノルディック・セミコンダクターは,Bluetooth LE,セルラIoT,Wi-Fi,電源管理ICなどの分野で, 無線通信向け半導体を開発・提供している企業である. 2026年1月,2月,同社の最新技術を紹介する 「Nordic Tech Tour Japan 2026」が東京と大阪で開催された.

本イベントでは,第4世代マルチプロトコルSoCであるnRF54シリーズや, 衛星通信を統合したnRF91シリーズ, Wi-Fi 6対応のnRF70シリーズなど, 最先端の無線ソリューションが紹介された.

また,nRF54L15開発キットを用いたハンズオン・ワークショップに加え, Bluetooth SIGやCSA(Matter),Zephyr Projectといった業界団体, さらにサイバ・セキュリティの専門家による最新動向の解説も行われた.

以下では,Nordic Tech Tour Japan 2026における講演内容を, テーマごとに紹介する


ノルディック・セミコンダクターの製品群

Paal Kastnes
ノルディック・セミコンダクター
Technical Product Manager

ジョン・ケニー
ノルディック・セミコンダクター
ジャパン・カントリーマネージャー

写真1 講演の様子

ノルディック・セミコンダクターは,1983年にノルウェーで創業したファブレス半導体メーカであり,低消費電力ワイヤレス通信技術の分野で世界的なリーダーとして知られている.現在は約1350名の従業員を擁し,研究開発拠点と営業拠点を世界各地に展開している.同社はBluetooth Low Energyをはじめ,セルラーIoT,Wi-Fi 6 IoT,および電源管理ICを含む幅広い製品群を提供し,ICからソフトウェア,開発ツール,クラウドサービスまでを一体化したエンド・ツー・エンドのソリューションを強みとしている.

図1 ノルディック・セミコンダクターの事業概要

製品技術面では,22nmプロセスへの移行を進めており,性能と低消費電力の両立を図るとともに,供給安定性を高めるためのデュアルソース戦略を推進している.また,認証済みモジュールの提供や成熟したソフトウェア・スタックにより,開発期間の短縮と量産立ち上げの容易化を実現している.

開発者向けには,nRF Connect SDKを中核とした統合開発環境,評価ボード,モバイル・アプリ,オンライン教育コンテンツ,およびグローバルな技術サポート体制を整備している.これにより,ユーザは通信や低レイヤ技術の実装を意識することなく,アプリケーションや製品価値の差別化に集中できる.

同社が注力する市場は,コンシューマ,産業機器,ヘルスケア分野であり,低消費電力と高信頼性が求められるIoT機器を中心に採用が進んでいる.サステナビリティにも重点を置き,省電力技術を通じて持続可能な社会の実現に貢献することを目指している.

図2 ノルディック・セミコンダクターの主要ターゲット市場

主な製品群は無線通信技術や機能ごとに以下の4つのカテゴリに分かれる.

図3 ノルディック・セミコンダクターの製品カテゴリ構成

●1. ショートレンジ(Bluetooth LE)製品群
同社はBluetooth Low Energy(LE)市場のリーダであり,10年以上にわたり低消費電力かつ高性能なSoC(System on Chip)を提供する.

▲nRF52 / nRF53 / nRF54シリーズ
業界標準とされるBluetooth LEスタックを備え,超低消費電力と高い無線性能を両立する.

▲次世代のnRF54シリーズ
マルチコアMCU,大容量メモリ,豊富な周辺機能を備える.
・Fit for purpose(目的に適した)
・Mainstream(主流)
・High performance(高性能)
という3つのロードマップに基づいて製品を展開する.

図4 nRF54シリーズの製品ロードマップ

●2. セルラIoT(Cellular IoT)製品群
セルラIoTをより簡単に導入できるよう設計されたシリーズ.
▲nRF91シリーズ
アプリケーションMCUを内蔵した最小サイズかつ低消費電力のSiP(System in Package)モジュール.世界各地で認証済みである.

●3. Wi-Fi 6 IoT製品群
バッテリ駆動のIoTアプリケーションを可能にする低消費電力なソリューション.
▲nRF70シリーズ
2.4GHzおよび5GHzのマルチバンドに対応し,データ・スループットの最適化と他規格との共存を可能にする.オープンソース戦略に基づいた堅牢なWi-Fiホスト・スタックを提供しており,高い相互運用性を備える.

図5 Wi-Fi 6対応 nRF70シリーズの位置付け

●4. パワー・マネジメントIC(PMIC)製品群
システムの複雑さを軽減し,製品の市場投入までの時間を短縮する.
▲nPMファミリ
高度に統合され,柔軟性が高く,使いやすいことが特徴.部品数(BOM)や基板スペースの削減が可能で,ユーザの要件に合わせてPMICを正確に構成できる.

図6 パワー・マネージメントICとしてnPMファミリを持つ

●共通サポート:クラウド・サービス(nRF Cloud)
上記の無線通信ソリューションに対して,共通のクラウド・サポートが提供されている.デバイス管理,ロケーション・サービス,FOTA(Firmware Over The Air:無線経由のファームウェア更新)など,デバイスのライフサイクル全体を支えるサービスを展開する.

図7 nRF Cloud

■nRFシリーズは無線通信専用LSIとしてもマイコンとしても使える(編集部補足)
ノルディック・セミコンダクターのLSI(nRFシリーズ)は,無線通信機能を内蔵したマイコンSoCとして設計されており,同社はその利用を前提とした統合開発環境を提供している.中核となるのが nRF Connect SDKであり,Bluetooth Low Energyをはじめとする各種無線プロトコル・スタック,RTOS,デバイス・ドライバ,セキュリティ機能,および周辺ツール群が一体化されている.

通信プロトコル・スタックは,SDKの一部として公式に提供されており,ユーザが独自に実装する必要はない.アプリケーション開発では,SDKが用意するAPIを介して通信機能を利用する形となり,プロトコルの詳細な内部動作を意識することなく,無線通信を組み込むことができる.ビルド時には,ユーザが記述したアプリケーション・コードと,ノルディック提供のプロトコル・スタックやミドルウェアがリンクされ,単一のファームウェアとしてSoC上で動作する.

この開発モデルにより,nRFシリーズは無線通信専用LSIとしてだけでなく,アプリケーションまで含めて単体で完結するマイコンとして利用されるケースが多い.一方で,既存製品への無線機能追加などを目的として,外部マイコンと組み合わせ,シリアル通信経由でnRFを制御する構成も選択可能である.この場合でも,通信プロトコルスタックはnRF側のSDKから提供され,外部マイコンは通信制御やアプリケーションロジックに専念できる.

さらに,ノルディックは評価ボード,サンプル・コード,モバイル・アプリ,オンライン学習環境,およびグローバルな技術サポート体制を整備しており,開発初期から量産までを一貫して支援する.これらの開発環境とソフトウェア資産を含めたトータルな提供形態が同社LSIの大きな特徴である.