Nordic Tech Tour Japan 2026レポートその10 Bluetoothテクノロジの動向

ノルディック・セミコンダクターは,Bluetooth LEやセルラIoT,Wi-Fiなどの無線通信向け半導体を手がけるメーカである.2026年初頭,同社の最新技術を紹介する「Nordic Tech Tour Japan 2026」が東京と大阪で開催された.本イベントでは,nRF54,nRF91,nRF70の各シリーズを中心に,最新の無線ソリューションが紹介された.

以下では,Tech Tourにおける講演内容を,テーマごとに紹介する.

Bluetoothテクノロジーの動向

Lori Lee
Senior Director, APAC & China | Bluetooth SIG, Inc.

写真1 Bluetooth技術の将来動向に関する基調講演の様子

●Bluetooth SIGとは
本講演では,Bluetooth SIGが推進するBluetooth技術の現在地と,中長期的な進化の方向性が,エコシステム全体の視点から体系的に示された.Bluetooth SIGは1998年に設立された会員主導型の業界団体であり,Bluetooth規格の策定,相互接続性を保証する製品認証(Qualification),市場への普及促進という三つの役割を担っている.現在,世界で4万社を超える企業が参加し,毎年約1000社が新たに加わる巨大な技術コミュニティへと成長している.特に日本は,会員数および製品認証数の両面で世界第3位規模を維持しており,グローバルおよびアジア太平洋地域において重要な役割を果たしている.

●年間出荷台数は50億台,2029年には77億台へ

Bluetooth対応製品の年間出荷台数はすでに50億台を超え,2029年には77億台規模へ拡大すると予測されている.この成長はコンシューマ分野にとどまらず,商業施設,産業用途,ヘルスケア,サステナビリティ分野など,極めて幅広いユースケースに支えられている.Bluetoothは単なる通信技術ではなく,「人と人」「デバイスとデバイス」「システムとシステム」をつなぐ社会基盤として,日常生活に深く浸透していることが強調された.

図1 Bluetooth対応製品の出荷台数推移と将来予測

●デバイスどうしのネットワーキング

技術トピックとしてまず紹介されたのが,デバイス・ネットワーキングである.Bluetooth NLC(Networked Lighting Control)は,標準化されたデバイス・プロファイルを用いて大規模な照明制御ネットワークを実現する仕組みであり,Bluetooth LEとメッシュ接続を基盤とすることで,低コストかつ高い拡張性を両立している.2025年7月にはHVAC(空調)との連携が追加され,照明制御から建物全体の設備管理へと対象が拡張された.これにより,最大30%に及ぶエネルギー削減効果が,商業施設や倉庫,オフィス・ビルなどで実証されつつある.

図2 Bluetooth NLCによる設備ネットワーキングの拡張

●小売分野では電子棚札で価格更新や在庫管理が容易に

小売分野では,電子棚札(ESL)が次世代のデジタル・インフラとして注目されている.Bluetooth標準に基づくESLを導入することで,価格更新の即時化,在庫管理の効率化,長期的な運用コスト削減が可能になる.標準化はベンダ・ロックインの回避にも寄与し,大規模店舗を展開する小売事業者にとって大きな利点となる.

●音声分野では1対多配信のAuracastが実運用フェーズへ

音声分野での大きな進展がAuracastである.Auracastは1対多の音声配信を可能にし,スマートフォンやテレビ,公共設備などを送信機として,イヤホンや補聴器を含む個人デバイスで直接受信できる.駅,スタジアム,大学,美術館など世界各地で導入が進み,すでに実運用フェーズに入っている.

図3 Auracastによる1対多音声配信の利用イメージ

●測距技術 Bluetooth Channel Sounding

Bluetooth Channel Soundingは,Bluetooth Low Energy(BLE)で高精度かつセキュアな距離測定を実現する次世代の測距技術である.無線信号が空間を伝搬する際の位相(Phase)や時間特性を詳細に測定することで,通信相手との距離をセンチメートル級で推定することを目的としている.本技術はBluetooth SIGが策定を進める次世代Bluetooth測距機能の中核に位置付けられており,デジタル・キー,Find Myネットワーク,資産管理,産業安全用途などへの応用が期待されている.また,主要プラットフォームでの対応も進みつつある.

図4 Bluetooth Channel Soundingによる高精度測距の応用分野

●高データ・スループットも期待,7.5Mbpsもありうる

加えて,超低遅延HID(ULL HID)や高データ・スループット(HDT)など,次世代仕様の開発も進行中である.Bluetoothは単なる近距離無線技術を超え,社会と産業を支える長期的プラットフォームへと進化していくことが示された.

図5 高いデータ・スループットにより社会と産業を支えるデバイスが開発される