Nordic Tech Tour Japan 2026レポートその4 Matter認証プロセスの最新動向

ノルディック・セミコンダクターは,Bluetooth LE,セルラIoT,Wi-Fi,電源管理ICなどの分野で,無線通信向け半導体を開発・提供している企業である.2026年初頭,同社の最新技術を紹介する「Nordic Tech Tour Japan 2026」が東京と大阪で開催された.

本イベントでは,第4世代マルチプロトコルSoCであるnRF54シリーズや,衛星通信を統合したnRF91シリーズ,Wi-Fi 6対応のnRF70シリーズなど,最先端の無線ソリューションが紹介された.

午後のセッションでは,無線技術そのものに加え,製品化や市場展開を支える制度,標準化,法規制といった周辺要素に焦点が当てられた.スマートホーム分野で存在感を高めるMatterの認証プロセスや,IoT機器を取り巻く各国のサイバーセキュリティ法制など,実際の製品開発や事業展開に直結するテーマが取り上げられている.

Matter認証プロセスの最新動向

武部 泰行
TUV Rheinland Japan
製品事業部 電気製品部 Wireless/IoT課
シニアエンジニア

写真1 講演の様子

講演では,CSA(Connectivity Standards Alliance)が策定するスマートホーム向けIoT共通規格「Matter」の概要と,その認証プロセスの最新動向,特に低コスト・低負荷で認証を行うための仕組みについて解説した.

●マルチベンダ規格 Matter

Matterは,Google,Amazon,Appleなど複数プラットフォーム間の相互運用性を実現するマルチベンダ規格であり,従来は各社個別対応が必要だったIoT機器開発を大幅に簡素化する.Wi-Fi,Ethernet,Threadを主な通信手段とし,初期接続にはBluetoothを利用する.ブリッジ機能によって既存デバイスの統合も可能で,スマートホーム分野を中心に採用が拡大している.

図1 Matterの概要と通信構成

●認証試験機関 TUV Rheinland Japan

TUV Rheinland Japanは,CSAより認定を受けた認証試験機関(ATL)であり,日本(横浜)にてMatter認証試験を日本語で実施できる点が大きな特徴である.見積りからテスト,認証までを国内で完結でき,申請者の負担軽減に寄与している.

図2 TUV Rheinlandはドイツに本社がある第3者認証機関,Matter認証試験を日本語で実施できる

●Matter認証のフロー
Matter認証の基本フローは,CSA入会,Vendor ID取得,製品開発,通信方式選択,ATLでの認証テスト,CSAへの申請・承認,DCL(Distributed Compliance Ledger)登録という流れで構成される.

図3 Matter認証の基本フロー

●Platform認証とFastTrack再認証

この中で近年注目されているのが,認証負荷を下げるための2つの制度,Platform認証とFastTrack再認証である.Platform認証とは,あらかじめMatter Platformとして認証済みのプラットフォームを用いて製品開発を行うことで,通常必要となるコア部分のテストを免除し,アプリケーションレベルの試験のみで製品認証を可能にする仕組みである.これにより試験項目が大幅に削減され,費用・期間の両面で大きな削減効果が得られる.

図4 Platform認証による試験項目削減の考え方

一方,FastTrack再認証は,既に認証を取得した製品に対する機能追加や改修を,ATL試験なしのセルフテストで行える再認証制度である.CSA登録費・ATL試験費が不要で,認証コストを大きく抑えられるほか,セキュリティ修正などの緊急アップデートを迅速に市場へ反映できる利点がある.

加えてTUV Rheinland Japanでは,Matter認証で使用されるTest Harnessの構築・運用を支援するハンズオン・トレーニングや事前試験サービスも提供しており,開発初期から認証取得後まで一貫した支援体制を整えている.

総じて,Matter認証は制度の理解と適切な仕組みの活用により,コスト・期間・手間を大きく削減することが可能であり,日本語対応可能な国内ATLを活用する意義は大きいことが強調された.

●CSA会員制度について
CSA(Connectivity Standards Alliance)が定める会員制度には,以下の4つのランクがある.

▲1.Promoter(年会費105,000ドル)
最上位の会員レベルで,理事会への参加権を持ち,ワーキング・グループでの投票や規格・テスト資料の開発を主導できる.

▲2.Participant(年会費20,000ドル)
ワーキング・グループへの参加や投票,規格開発への関与が可能であり,FastTrack再認証プログラムを利用するにはこのランク以上が必要となる.

▲3.Adopter(年会費7,000ドル)
製品の新規認証取得は可能だが,ワーキング・グループへの参加や投票権,規格開発への参加権はない.

▲4.Associate(年会費0ドル)
年会費は無料だが,自社での新規認証取得はできない.主に他社が認証済みの製品を自社ブランドとして登録するCertification Transfer Program向けの会員区分である.

上位2ランクは,新規認証費用がAdopter(3,000ドル)よりも安価な2,000ドルに設定されている.

図5 CSA会員制度と認証費用の関係