Nordic Tech Tour Japan 2026レポートその7 エッジAIへの取り組み

ノルディック・セミコンダクターは,Bluetooth LEやセルラIoT,Wi-Fiなどの無線通信向け半導体を手がけるメーカである.2026年初頭,同社の最新技術を紹介する「Nordic Tech Tour Japan 2026」が東京と大阪で開催された.本イベントでは,nRF54,nRF91,nRF70の各シリーズを中心に,最新の無線ソリューションが紹介された.

以下では,Tech Tourにおける講演内容を,テーマごとに紹介する.

エッジAIへの取り組み

ジョン・ケニー
ノルディック・セミコンダクター
ジャパン・カントリーマネージャー

写真1 講演の様子

近年,AI活用はクラウド中心のビッグデータ解析から,デバイス側で判断を行うエッジAIへと広がりを見せている.ノルディック・セミコンダクターが提唱するNordic Edge AIは,この流れを背景に,超低消費電力デバイス向けに最適化されたエッジAI技術を体系的に提供する取り組みである.

ウェアラブル,スマートホーム,産業機器,ヘルスケア,物体追跡など幅広い分野で実用化を進めており,超低消費電力という同社の強みを生かせる.

図1 エッジAI適用分野(ヘルスケアの例)

AIは広義には人間のような知的振る舞いを目指す技術全般を指し,その中で機械学習(ML)はデータから規則性を学び,分類や予測を行う手法として位置付けられる.従来,これらの処理はクラウド上で実行されることが多かったが,通信遅延,消費電力,プライバシーといった課題があった.エッジAIでは,推論処理をデバイス内部で完結させることで,リアルタイム性の向上,通信量削減,電力効率改善,データ秘匿性の確保といった利点が得られる.

Nordic Edge AIの特徴は,用途に応じて使い分け可能な2つの補完的アプローチにある.

●CPU上で動作する超小型AIモデルNeuton

1つ目は,CPU上で動作する超小型AIモデルNeutonである.Neutonは主に加速度センサ,慣性センサ,生体センサなどの時系列データを対象とし,モデル・サイズは数Kバイト程度と小さい.従来のニューラル・ネットワークのように大規模構造を作ってから削減するのではなく,必要な結合のみを最初から構成することで,高精度と小型化を両立している.このため,ノルディックのほぼ全てのSoCで利用でき,電池駆動のウェアラブルやIoT機器に適している.

図2 超小型AIモデルNeutonの構成イメージ

●AIアクセラレータAxon NPU

2つ目は,nRF54LM20Bに搭載されたAIアクセラレータAxon NPUである.こちらはTensorFlow Liteモデルを対象とし,音声や画像,より高レートなセンサ・データ処理を高速かつ低消費電力で実行できる.CPU処理と比べて最大15倍の性能向上と大幅な省電力化を実現しており,キーワード・スポッティングや簡易音声認識など,やや負荷の高いAI処理をエッジで可能にする.

図3 nRF54LM20BにはAxon NPUが搭載される

●開発環境

Nordic Edge AI LabとnRF Connect SDK向けのEdge AIアドオンにより,データをアップロードするだけで,モデル生成からCライブラリ出力,組み込みまでを一気通貫で行える点も大きな特徴である.これにより,AI専門家でなくともエッジAIを製品に組み込める環境が整いつつある.

▲Nordic Edge AI Lab

Nordic Edge AI Labは,センサの時系列データをアップロードするだけで,エッジAI向けの超小型モデルを自動生成できるクラウド型開発環境である.特徴量抽出,モデル設計,学習,最適化までを自動化しており,AIの専門知識がなくても高精度かつ低消費電力なモデルを作成できる.生成されたモデルはCライブラリとして提供され,ノルディックの各種SoCに容易に組み込める点が特徴である.

図4 Nordic Edge AI Labによる学習済みモデル生成フロー

▲nRF Connect SDK

nRF Connect SDKは,ノルディック・セミコンダクターが提供するSoC向けの統合ソフトウェア開発キットであり,RTOSとしてZephyrをベースに,通信スタック,ドライバ,ミドルウェアを統合している.Bluetooth LEやThread,Wi-Fi,セルラなど幅広い無線規格に対応し,アプリケーション開発からデバッグまでを一貫して行える.Edge AIアドオンを組み合わせることで,エッジAI機能も同一環境で実装可能である.