Nordic Tech Tour Japan 2026レポートその9 クラウド・プラットフォーム nRF Cloud

ノルディック・セミコンダクターは,Bluetooth LEやセルラIoT,Wi-Fiなどの無線通信向け半導体を手がけるメーカである.2026年初頭,同社の最新技術を紹介する「Nordic Tech Tour Japan 2026」が東京と大阪で開催された.本イベントでは,nRF54,nRF91,nRF70の各シリーズを中心に,最新の無線ソリューションが紹介された.

以下では,Tech Tourにおける講演内容を,テーマごとに紹介する.

クラウド・プラットフォーム nRF Cloud

ジョン・ケニー
ノルディック・セミコンダクター
ジャパン・カントリーマネージャー

写真1 クラウド戦略に関する講演の様子

講演では,ノルディック・セミコンダクターが提供するnRF Cloudと,同社が買収したMemfault社を中核としたクラウドおよび開発支援戦略について解説した.nRF Cloudは,IoT/組み込み機器の開発段階から量産,運用段階までを一貫して支援するクラウド・プラットフォームであり,デバイス監視(Observability),OTA(FOTA),位置情報サービスなどを統合的に提供する点が特徴である.

●クラウド型デバイス可観測性プラットフォーム Memfault

Memfaultは,組み込み機器向けのクラウド型デバッグ/監視ツールであり,クラッシュ,リセット,メモリ・エラー,Heartbeat(デバイス生存信号)などのイベント発生時に,RAMやレジスタ情報を保存・送信し,クラウド上で解析できる.これにより,従来は再現が困難だった不具合の原因究明を迅速化し,製品品質と開発スピードの両立を実現する.開発段階だけでなく,市場投入後の実機群(フリート)に対しても,クラッシュ頻度,再起動状況,ログ,メトリクスを横断的に把握できる点が特徴である.

図1 Memfaultによるデバイス可観測性(Observability)の概要

●デバイス監視(Fleet Health Monitoring)

Memfaultを中核とするnRF Cloudは,デバイス監視(Fleet Health Monitoring)機能を備える.電池消費,接続品質(BLE,Wi-Fi,LTE),ファームウェアの安定性,フラッシュ摩耗といったデバイス・バイタルを可視化し,ソフトウェア・バージョン間の比較による劣化検知や回帰防止を可能にする.これにより,実環境下での信頼性を定量的に把握できる.

●OTA(FOTA)

Memfaultを中核とするnRF Cloudは,OTA(FOTA)機能を備える.更新を段階的に配信する仕組みや,変更部分のみを送信する差分更新方式を採用しており,更新前の承認手続きや作業履歴の記録にも対応する.これにより,多数の機器を同時に管理する場合でも,リスクや消費電力を抑えながら安全に更新できる.なお,OTAとは,製品を使用したまま通信経由でソフトウェアを更新する仕組みであり,FOTAはその中でもファームウェア更新に特化したものである.

●位置情報サービス

nRF Cloudの位置情報サービスでは,GPS/GNSS,A-GPS/P-GPS,Wi-Fi,セルラ(Single Cell/Multi Cell)を組み合わせ,屋内外や消費電力要件に応じた最適な測位を提供する.Wi-Fiやセルラ測位を活用することで,GPSが使いにくい都市部や屋内環境においても,低消費電力で位置推定が可能となり,資産管理,ウェアラブル,スマート機器への応用が想定されている.

図2 Wi-Fiやセルラ測位を活用することでGPSが使いにくい都市部や屋内環境においても位置推定が可能

総じてnRF Cloudは,nRF Connect SDKと深く統合され,「見える化」「修正」「更新」「運用」を単一のクラウドで完結させることを目標としている.Memfaultを中核とした可観測性,セキュアで効率的なOTA,および位置情報機能により,IoT製品の信頼性向上と市場投入後の継続的な価値創出を支えるプラットフォームである.

図3 nRF Cloudを中心としたIoT支援の全体像