Interface編集部

ailia SDKを試す<第21回> ailia-SDKをAndroid上で動作させる環境「Android Studio」の導入
ailia-SDKは,エッジAI向けに設計された高性能な推論ライブラリですが,IoT用途だけでなくAndroid環境でも動作させることができます.スマートフォン上で動作させることで,モバイル通信/Wi-Fi/カメラ/音声入出力といったAndroid端末固有の機能を活用し,クラウド接続やローカル処理を組み合わせた柔軟なAIシステムを構築できます.
そこで今回は,Android Studioを用いてailia-SDKを動作させるための開発環境構築手順を解説します.公式のサンプル・プロジェクトailia-models-kotlinをもとに,ビルドから動作確認までの流れを紹介します.
●実行環境と開発環境
使用したシステムおよび環境を表1に示します.
名称 | 内容 |
---|---|
OS | Windows11 Pro |
CPU | AMD Ryzen5 3600 |
RAM | 32GB |
GPU | NVIDIA GrForce RTX 3060 12GB |
Python | python-3.10.11-amd64 |
ailia-SDK | Version 1.5.0.0 |
ailia-models | v1.4.0 https://github.com/axinc-ai/ailia-models |
cuda | Cuda compilation tools, release 12.9, V12.9.86 |
表1 システム構成一覧
今回使用した開発環境は,公式リポジトリ(github.com/axinc-ai/ailia-models-kotlin)に記載されている構成をもとにしています.しかし,同リポジトリの情報は古く,現行環境では一部ライブラリやツールが入手できないものが含まれています.そのため,ここでは,2025年時点の最新開発環境(表2)を基に,実際に利用可能な設定を検証しました.
名称 | 内容 | 検証環境 |
---|---|---|
OS | Windows11 Pro | Windows11 Pro |
Android Studio | 2023.1.1 | 2025.1.3 |
Gradle | 7.4.2 | 7.4.2 |
ailia SDK | 1.5.0 | 1.5.0 |
Java | --- | JDK 18 |
表2 最新の開発環境
●環境構築
▲ステップ1:Android Studioのインストール
ウェブ・サイト(https://developer.android.com/studio?hl=ja)からダウンロードできます(図1).
図1 Android Studioのインストール…2025/10/04 時点での最新版は「 2025.1.3.7」
ダウンロードしたインストーラを実行し,画面の指示に従ってインストールを行います.特別な設定は不要で,標準構成のままで問題ありません.
なお,過去バージョンのインストーラは非公式ミラー・サイトなどから入手できる場合もありますが,改ざんやマルウェア混入のリスクがあるため,公式サイトからのダウンロードを強く推奨します.
▲ステップ2:SSH認証キーの作成
ailia-models-kotlinのリポジトリは,複数のサブモジュール(submodule)で構成されています.そのため,リポジトリ全体を一度にクローンするには,GitHubにSSH認証キーを登録しておく必要があります.既にSSHキーを登録済みの方は,この手順をスキップしてください.
まずは,認証キーの作成です.PowerShellを開き,次のコマンドを実行して認証キーを生成します.メール・アドレスの部分は,ご自身のGitHubアカウントに登録しているメール・アドレスに置き換えてください.
******
PS > ssh-keygen -t ed25519 -C “hogehoge@hogehoge”
******
実行後の流れをリスト1に示します.
*******
PS > ssh-keygen -t ed25519 -C “hogehoge@hogehoge”
Generating public/private ed25519 key pair.
Enter file in which to save the key (C:\Users\hogehoge/.ssh/id_ed25519):
Created directory ‘C:\\Users\\hogehoge/.ssh’.
Enter passphrase (empty for no passphrase):
Enter same passphrase again:
Your identification has been saved in C:\Users\hogehoge/.ssh/id_ed25519
Your public key has been saved in C:\Users\hogehoge/.ssh/id_ed25519.pub
The key fingerprint is:
SHA256:xxxxxxxxxxxxxxxxxx hogehoge@hogehoge
The key’s randomart image is:
+–[ED25519 256]–+
| ++B. |
| o.= . |
| ooo . . + |
| ..+=o B + |
| +ooo S B . |
| + * + o |
| o +.+o. |
|E . = B = |
| . +o+.=.. |
+—-[SHA256]—–+
*******
リスト1 コマンド実行後の結果
生成が完了すると,id_ed25519(秘密鍵)とid_ed25519.pub(公開鍵)が作成されます.
▲ステップ3:SSH認証キーの登録
続いて,GitHubの設定画面で公開鍵(id_ed25519.pub)の内容をコピーして登録します.手順を次に示します.
******
・1,GitHubのダッシュボード画面を開き,右上のプロフィールアイコンから「Settings」→「SSH and GPG keys」→「SSH keys」→「New SSH key」 の順に進む(図2)
・2,「Add new SSH key」画面が表示されたら,Keyの入力欄にid_ed25519.pubの内容をそのままコピーして貼り付ける
・3,「Add SSH Key」ボタンをクリックすると,登録が完了
******
図2 「Add new SSH key」の画面
これで,GitHubとのSSH通信が利用できるようになります.以降は,パスワード認証なしでリポジトリを安全にクローンできるようになります.
●ailia-models-kotlinリポジトリのクローン
SSHキーの登録が完了したら,ailia-models-kotlinリポジトリをクローンします.このリポジトリはサブモジュール構成になっているため,–recursiveオプションを付けて一括で取得します.
PowerShellなどのコンソールから,次のコマンドを実行します.
******
PS> git clone –recursive https://github.com/axinc-ai/ailia-models-kotlin.git
******
クローンが完了したら,リポジトリ内にailia-sdk-jniやailia-speech-jniなどのサブモジュールが正しく取得されているかを確認します.
図3 リポジトリ内の内容を確認
これらのサブモジュールがダウンロードされていない場合は,次のコマンドで再取得できます.
******
PS> git submodule update –init –recursive
******
これで,Android Studioで開発を行うためのソース一式が揃います.
●Android Studioへのプロジェクト登録
続いて,クローンしたリポジトリをAndroid Studioに登録します.手順を次に示します.
******
・1,Android Studioを起動し,スタート画面で「Open」を選択(図4)
・2,先ほどクローンしたフォルダ(ailia-models-kotlin)を指定して開く
・3,プロジェクトを初めて開く際には,「このフォルダを信頼しますか?(図5)」と確認されるので「Trust Project」をクリックしてプロジェクトを読み込む
******
図4 スタート画面で「Open」を選択
図5 この画面がでたら「Trust Project」をクリック
▲Javaバージョンの互換性エラー
プロジェクトを読み込むと,次のようなエラーが表示される場合があります.
******
Your build is currently configured to use incompatible Java 21.0.7 and Gradle 7.5. Cannot sync the project.」
******
このエラーは,Java 21がGradle 7.5に対応していないことが原因です.Gradle 7.5がサポートしているのは Java 18までのため,JDK 18を利用する必要があります.
▲JDKの設定
Gradleが利用するJDKを設定します.まずは,Android Studioの「Settings」画面から,次の手順で操作します.
*******
・1,メニューから「File」→「Settings」→「Build, Execution, Deployment」→「Build Tools」→「Gradle」を開く(図6)
・2,画面右側にある「Gradle JDK」のドロップ・ダウン・メニューを開き,「Download JDK…」を選択する(図7)
・3,表示されたJDK選択メニューで,「Version 18」を選択し「Download」をクリック(図8)
・4,ダウンロードが完了したら,設定画面を閉じ,ツール・バーのビルド・アイコン(図8)をクリックして再ビルドする
*******
図6 メニューから「Gradle」を開く
図7 「Download JDK…」を選択する
図8 JDK選択メニューとビルドアイコン
これで,GradleがJava 18環境で動作するようになり,プロジェクトを正常にビルドできるようになります.
●VirtuanDevice作成
Androidアプリを動作確認するために,Android StudioのDevice Managerで仮想デバイス(Virtual Device)を作成します.このための手順を次に示します.
▲ステップ1:Device Managerを起動
Android Studioのメニューから「Tools」→「Device Manager」を選択します.すると,Device Manager画面(図9)が表示されます.
▲ステップ2:新しいデバイスを作成
画面右上の「+ Create Device」をクリックします.「Select Hardware」画面が表示され,作成可能な端末の一覧が表示されます.今回は確認用として「Medium Phone」を選択し,「Next」をクリックします.
▲ステップ3:仮想デバイスの登録
設定を完了すると,Device Managerのデバイス一覧に「Medium Phone」が追加されます(図9).
▲ステップ4:仮想デバイスの起動
デバイス一覧の右側にある 再生ボタン(図10)をクリックすると,Medium Phoneが起動します.初回起動時はシステム構築やキャッシュ生成が行われるため,Phone画面が表示されるまで数分程度待機してください.Phone画面でアイコンが上下に動いている間は,ファイルの初期化中です.動作が落ち着き,画面が静止した状態になれば起動完了です(図11).
▲ステップ5:アプリのインストールと起動
仮想デバイスを起動したら,Android Studioの「Run(再生)(図12)」をクリックしてアプリをビルド・インストールします.ビルドが成功すると,仮想端末上でアプリが自動的に起動します(図13).
図9 deviceManager画面とPhone選択画面
図10 デバイス一覧の右側にある再生アイコン
図11 起動したPhone画面
図12 Android Studioの 「Run(再生)」アイコン
図13 起動画面(カメラ権限)とアプリ画面
●まとめ
今回は,ailia-models-kotlinプロジェクトをAndroid Studioに登録し,環境構築を行いました.当初はJDKやGradleの互換性など環境設定の問題がありましたが,設定を調整することで最新のAndroid Studio環境でもailia SDKが正常に動作することを確認できました.ここでは仮想デバイス(Virtual Device)を使用しましたが,次回は実際のAndroid端末上での動作検証を行う予定です.これにより,スマートフォンのカメラやマイクなどのデバイス機能を活用したAIアプリケーションの動作を,より実環境に近い形で評価できるようになります.
氏森 充(うじもり・たかし)
約30年間,(株)構造計画研究所にてIoT,ビッグデータ,機械学習,AI関連のシステム開発や実務応用に従事.退職後はLLM(大規模言語モデル)関連の情報収集や技術動向の調査・発信に注力し,雑誌「Interface」でもLLM技術に関する記事を執筆中.