人工知能の現在地

筆者は人工知能を扱うシステムの会社でプロジェクト・リーダ,およびデータ・サイエンティストとして業務を担当しています.また,データ・サイエンス・プラットフォーム Kaggleで獲得できるKaggle CompetitionsMasterの段位を保有しています.
● 最近の傾向
人工知能の技術を簡単に扱えるサービスが増え,案件での利用シーンもよく見るようになりました.クラウドのAPIを従量課金で利用することで,画像や言語処理などをプログラミングなしで利用できる場合が多く,自前でモデルを用意するケースが減っています.例えば,画像に対する自動タグ付けや画像中の物体を検出できるAPIなども登場しています.また,Google ColaboratoryのようにGPU/TPUといった行列演算を高速化できるアクセラレータも使える環境が提供されています.そのため,人工知能を始めたいエンジニアが簡単に試せるようになっています.

● 業務における人工知能の課題
▶依然としてデータの準備が大変
人工知能で分析するためのデータを準備しなければなりません.大手企業が学習用の大規模データを提供するケースもありますが,基本は業務に特化したデータセットでの学習が必要です.最近では,このデータセット構築のためにAmazon SageMaker Ground Truthのようなアノテーション作業を外注するサービスも利用されています.
▶予測結果の説明が求められる
人工知能で難しいのはモデルの予測結果に対する理由を説明することです.人工知能は基本的にブラック・ボックスであり,入力から出力にいたるまでの経過を説明できませんが,現在でも多くの研究者がモデルを解釈するための手法を開発しています.予測結果を説明できないと困る例の1つに肺炎があります.病院で肺炎と診断されたときに「なぜ肺炎と判断したのか」が分からないと,患者に説明できず納得してもらうことが難しくなります.そのため病変のある部分を強調する技術が開発されています.
▶精度100%の人工知能は作れない
人工知能を使っても,精度100%を達成できません.人工知能で勘違いされるものの1つとして「データさえあれば人工知能のモデルが勝手に学習を行い,どんなものでも確実に予測する」があります.しかし,人工知能が学習していないパターンを入力する場合もあるため,100%の精度を出すことは不可能です.そのため自動運転など,失敗してはいけないシステムに人工知能を導入するには,工夫が必要になります.例えば予測の信頼性が低い場合には,別の方式と併用してカバーする必要があります.このように業務で利用するとなれば,華々しさとは違い,泥臭く手間がかかります.
● 今後の発展
今後の人工知能の流れは主に2 つあると考えます.1つ目は一般的に利用されるデバイスへの組み込み事例が増えていきます.筆者が携わった案件でも光学カメラを利用した画像解析の事例が増えています.例えば光学カメラを利用した在庫管理などです.同じ箇所を撮影し続けると,徐々に在庫が減る様子が画像から判断できます.
2つ目は小型なハードウェアが普及し,末端のマシンで人工モデルが動かす利用シーンが拡大します.これまでGPUやTPUなどのアクセラレータの進化もめざましく,人工知能の多くで利用される行列演算の速度が高速になりました.さらにFPGAも人工知能で利用され,注目されています.筆者もFPGAを利用する案件に携わりました.そしてラズベリー・パイ,Jetsonのようなエッジ・デバイスが進化し,小さくとも高機能なハードウェアも普及しました.それらのエッジ・デバイスにも接続可能なEdge TPUやNeural Compute Stickのような外部から接続できるアクセラレータも販売されたりするようになりました.これにより,より高精度なモデルをエッジ・デバイスで運用することが可能になってきています.
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近年は特にハードウェアが進歩し,ますます人工知能でできることが増えていきます.ただ,エンジニアの立場としては,選択肢が増える中,ハードウェアやそのハードウェア上で最適な人工知能のアルゴリズムをどのように選択できるようになるか,知識や経験の幅が求められるようになります.
山本 大輝 Acroquest Technology株式会社(Interface2020年7月号 p.11より転載)