GOWIN 日本法人を設立へ

この記事は,Interface誌2023年12月号へ掲載した記事のフルバージョンです.

 

10月11日,GOWINのCEOである Jason Zhu氏が来日されたので,日本法人設立の狙いと,最新シリーズArora Vの特徴をインタビューしました.

 

●日本法人を設立する目的を教えてください

 これまで日本では,丸文(株)を通して販売やユーザ・サポートを行なっており,多くのユーザにFPGAをお使いいただくことができている.現状でも多くのフィードバックを得ているが,GOWIN本社へのアクセスが限定的な部分もあった.
日本法人の設立によって,販売の拡充はもちろんだが,ユーザの要望をよりダイレクトにGOWIN本社へ伝え,それらを製品開発へフィードバックしやすくする.そのために,FPGAの知見に加えて,日本のユーザとも詳細にコミュニケーションできる適切な人材が必要になる.既に日本語と中国語の両方を扱える人員や,日本市場を熟知したマーケッターを確保できており,今後もユーザの増加やビジネスのフェーズに応じて適切な人員を配置するつもりだ.
日本のユーザ向けに,既に日本語ドキュメントを用意しているが,技術的なサポートなどもより充実させていきたいと思っている.
日本には,自動車や産業機器など非常に多くの分野で活躍している企業がある.それぞれが世界のトッププレーヤであり,個人的には1980年代から注目していた.それらのユーザのニーズを満たすことで,GOWIN自身も世界で戦えるメーカになれると思っている.

 もう1つの重要な点として,品質に関するサポートがある.現状では中国の本社にて対応しているが,将来的にはローカルで個別の案件に対応できる体制を整えたい.日本市場では現在のところインダストリー向けが中心だが,今後は車載向けとして採用いただくことも想定している.その場合,ユーザはクイックな対応を望んでおり,拠点とサポート体制の構築は必須だ.
まずは販売の拠点として事務所を設置するが,今後はビジネスの拡充に合わせて他の地域に増やしたり,ローカルで解析を行える拠点を設置する可能性があり,東京に設置する事務所はその足がかりだと考えている.

●最新世代 Arora Vの特徴を教えてください

 Arora VはTSMCの22nmプロセスで製造される最新のシリーズだ.今年から本格的にマーケティングを行っており,複数のユーザに採用を検討していただいている.1世代前に採用していた55nmプロセスから,一気に22nmプロセスへと進めることは,EDAツールやアーキテクチャが異なるので大きなチャレンジだったが,無事に量産を開始できた.
新しい製造プロセスを採用すれば,1つのウェハから多くのチップを取ることができる一方で,当然ウェハ1枚のコストは上昇してしまう.現在のGOWIN FPGAのラインアップを考えると,最もバランスが取れているところが22nmだった.他のFPGAベンダでは,22nmを使っているところはないが,後発の優位性で最適なプロセスを採用できたと思っている.
プロセスが進んだことで,Arora VはAroraに対して,消費電力が65%程度向上し,速度は45%ほどアップしている.最もロジック規模の大きな138Kを筆頭に5~6種類をラインアップする予定だ.

 ▲高速通信で必須のSerDes

 1点目の特徴的な機能として最大12.5Gbpsの速度で動作するSerDesが挙げられる.パッケージによっては速度が低下するが,ワイヤ・ボンディングを用いたパッケージの場合でも10Gbpsで通信可能だ.
このSerDes用IPは自社開発したものなので,問題発生時の解析や個別のカスタマイズにも対応しやすくなっている.例えば,ユーザの開発現場でクロストークが問題になるような場面でも,原因の切り分けや問題への対処をスムースに行える.
SerDesのIPでは,通信が途切れて再接続する場合に時間がかかるものが多いが,GOWINのIPでは短時間で接続を確立できる.
SerDesの上位のプロトコルについても,MIPI C-PHYやD-PHYはIPを自社開発している.他にも複数のものに対応させる予定だ.

 ▲EasyCDR IPを使った高速シリアル・インターフェース

 高速な通信を行う場合に,通常のI/Oポートをアサインして使用するEasyCDRというソフトウェアIPを用意している.GPIOを使い最大2.5Gbpsで通信が可能であり,数多いGPIOを自由に設定できることで,複数のカメラや表示装置を扱う場合にベネフィットを提供できると考えている.USB 2.0からMIPI C-PHYまで高速通信での使用も視野に入れて多彩なプロトコルをサポートする.

 ▲ハードで実装されたエラー訂正機能

 宇宙線の影響でSRAMが書き換わってしまうことが問題になる場合がある.Arora Vでは,1000ビット当たり2ビットまでのエラーを訂正し,3ビットエラーの場合はレポートできる回路をハードウェアとして搭載しており,評価において良好な結果が得られている.

●車載向けの展望について

 車載向けについては既に中国では大きなシェアを持っているが,中国以外の国でも拡販していきたい.
1つの側面として,現在では従来の自動車メーカとは異なるITに強い会社が参入してきており,開発の手法やスピード感が変わってきていることがある.
もう1つの側面として,スマートフォンなどはAppleとAndroidの2強だが,自動車はメーカが多く,一方で生産台数は少ないことがある.
これらの2点の性質はFPGAの優位性が出やすいと言える.加えて,機能安全などの認証が必要なので,新しい機能をCPUベースのSoCで実現しようとすると,SoCの認証に時間とコストがかかってしまう.ある程度仕様が固まってくるとSoCも出てくるが,そのときFPGAは次世代の製品を対象とするようになっており,自動車向けではそれぞれのデバイスが違うフェーズを扱うことになる.そのため,部位に限らず自動車でFPGAが使われると考えている.既に車載向けの認証を取得したデバイスも用意している.
中国向けでは既に300万個のデバイスを出荷済みで,不良による返品は0PPMだ.トランスミッション,IGBTコントローラ,マルチスクリーン,Lidarなどで使われている.今後はADASなどでも使われていくだろうし,カメラを使ったアプリケーションも増えるはずだ.

●FPGAチップへ積和演算器などを載せる予定はあるか

 世間ではAIに関する機能をアピールするベンダが多いが,AIを使ったアプリケーションについては,まだ始まったばかりであり,ユーザが適用できる分野を見極めている段階だと見ている.
GOWINにおいても,製造工程における不良検出をマシンビジョンで行ったことがあり,既設のシステムではPCで行っている処理をFPGAを使うことでエッジ側で処理し,10倍のスループットを実現した.
このケースでは直接ユーザとやりとりし,開発をGOWINのチームが行っている.MACのようなハードウェアによるAI機能をチップに実装するだけでなく,ユーザのニーズをくみ上げた後にシステムとして提案することを考えており,日本市場においてもそういった対応を行うことが日本法人を立ち上げる目的の1つだ.

●ホビーやFPGA初心者向けのボードについて

 ホビーでFPGAを使用するユーザや学生に対して,直接のサポートというわけではないが,何らかの方法で情報を出したり,間接的に応援したいと思っている.
現在のところ,中国ではUniversity Programがあり,台湾でも近々始めることになっている.日本においては,FPGA書籍の日本語化を検討しているのと,University Programについても状況によって検討したい.
ホビー向けにも使いやすいものとして,中国のボードメーカであるSipeedがGOWINのFPGAを搭載したボードを製造している.彼らとは密に連絡を取っており,さまざまな情報提供も行っている.ホビーユースからイノベーションが生まれることも期待しており,Sipeedとの関係は今後も継続していくつもりだ.

編集部:本日はありがとうございました.