スポーツ・センシング for 2020
第2回
なんと100g 超え!
投手の手首加速度を測る

●できるだけ安価に投手の球速を推定したい

  投手の球速はスピードガンで測定できます.20年前のスピードガンは超音波によるものが主流で,気温による誤差が大きいものでした.マイクロ波を使ったものは球場据え置き型で100万円近くする時代でした.そこでスピードガンがなくても腕時計を使って球速を知ろうと思い立ちました.
 まず,投手の利き腕の手首に加速度センサを取り付けます.格闘技のパンチ動作(2017年4月号)では拳の動き(=手首の動き)は直線的でした.この投球動作は3次元的な動きをしますが,当時はまだ3軸加速度センサなどはない時代です.そこでパンチ実験で用いた加速度センサ(圧電型加速度計702FB/ST,ティアック)3つを直交させて手首に配置する治具を用意し,それを投手に装着してもらいました.

 

●ピッチングの驚くべき加速度…瞬間的に100g!

  実験は学生,少年野球,高校野球そして一流社会人野球選手たちの力を借りて,多数行いました(図1).

図1 投手の手首遠心方向の加速度は100g に達することも

 

  計測データは驚くべきものでした.投手がストレートを投げる際に観測された手首の加速度のうち,前腕に沿った方向の加速度は,なんと100g(重力の100 倍)を超えるものでした.ボールが手から離れる瞬間にはこんなに大きな加速度が生じていたのです.
  100g が作用するわけですから,加速度計,固定装置,そしてケーブルの総重量が,1/100s以下の一瞬の間,100倍の重量になったことに相当します.

 

●手首の加速度から球速を推定できた

 投球動作は単純化すると投球する腕の回転運動ですから,回転運動で生じる遠心加速度(前腕の長軸方向に相当する)は,回転半径rと回転角速度ωの2乗との積で表されます(a=rω2).腕の振り(回転角速度)が速ければ,その2乗で加速度は大きくなりますから,動作の影響は大です.
 実験からボールが手を離れる前の手首加速度を時間をさかのぼって取り出し,そのデータから球速を予測しました.ボールの手離れは銅箔テープを人差し指と中指に貼り(写真1),2点間のインピーダンスで検出しました.

写真1 ボール・リリース(図1)は銅箔テープを利用して測る


 予測には球速の真の値が必要ですが,既に述べたように信頼できるスピードガンは高価でしたから,レーザ光を2列並べることにしました.球が通り過ぎるときの時間差から初速度が測れます(写真2).初速度と手首の加速度の関係を調べることで,高い精度で球速を予測できるようになりました.

 

写真2 レーザ光のカーテンを自作して通過時間から球速を測る
 


仰木 裕嗣

慶應義塾大学  大学院政策・メディア研究科  政策・メディア専攻

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