スポーツ・センシング for2020 第25回
泳いでくる選手を自動検知する水中カメラ

 筆者は2004年ごろから,障がい者水泳の支援研究に携わっています.視覚障がい水泳選手の試合では泳いでいる選手がプールの壁に接近していることを伝えるために「タッパー」と呼ばれる介助者が必要です.
この介助者の負担を減らすために「接近検知装置」という支援装置を開発しました(写真1).
 装置はコースを仕切る浮き(コース・ロープ)に組み込みます.内蔵されたカメラ(車のバック・モニタ用)で水中の様子を監視し,泳いでいる選手が接近してくると自動的に大音量でアラーム音を発します.泳いでいる選手の顔や頭は,水中にあるときと,水上にあるときがあるため,水中スピーカと水上スピーカの両方を利用し,選手に壁へ接近していることを知らせます.水中で用いますので完全防水,非接触充電です.また,水上部にあるアンテナを用いた無線LANによる制御など技術要素が盛りだくさんです.
 壁に向かって泳いでくる選手をセンシングする方法として,レーザ,レーダ,RFID,超音波,そして映像など,いろいろな候補があります.さまざまなものを検討し,実験して探った結果選んだのが,水中カメラ映像を用いる方法でした(写真2).
 画像処理は時間がかかりますが,ノロノロしていては選手が壁にぶつかってしまいます.正確,かつ迅速に画像処理を行い,選手の接近を検出しなければなりません.FPGAを使った組み込みLinuxを搭載することで,この高速処理を実現しています.また,選手などが歩いて近づいてくるような場合には反応しないようにも工夫しています(写真3).

□参考文献□
(1)仰木 裕嗣ほか; 視覚障がいスイマーのためのトレーニング支援装置の開発, 日本機械学会〔No.16-40〕シンポジウム:スポーツ工学・ヒューマンダイナミクス2016,USB抄録集,
2016.

仰木 裕嗣(Interface2019年9月号 p.16より転載)