スポーツ・センシング for2020
第31回
UHF帯RFIDで
 スキー・ジャンプの通過速度を測る

● 駅伝やマラソンで使われているUHF帯無線タグ
正月は箱根駅伝を見て過ごした方も多いでしょう.駅伝やマラソンでは,選手の靴やゼッケンなどにUHF帯無線タグ(RFID)が装着されており,ゴール・タイムやラップ・タイムが瞬時に計測されます.
自転車やトライアスロンなどでも広く用いられています.路面にアンテナが敷かれているマラソンに対して,自転車競技などでは選手が通過するゲートの上にアンテナが顔をのぞかせています.競技ごとに選手がどこにRFIDタグを装着すれば計測ミスを減らせるのかもレポートされています(1).測る対象によってはアンテナの工夫も必要です.
● スキー・ジャンプの踏み切り時の速度を測れないか
筆者は10年ほど続けているスキー・ジャンプの計測で,工夫をこらして独自のタイミング・ゲート・システムを作りました.使用したUHF帯RFIDタグは,dogbornと呼ばれる薄型でシール・タイプのものや,金属対応タグなどです.いずれも選手のヘルメットに貼り付けて使用しています(写真1).このヘルメットに貼り付けたRFIDに対して,踏み切り台側方にアンテナを設置してリーダで読み取ります.踏み切り直前の部分2カ所にアンテナを設置し,2つのアンテナ間の距離を測定しておくことで,踏み切り直前の選手の速度を測定するのが狙いでした(図1).
さらにRFIDを使うことで,どの選手のデータかも特定できます.「どの選手が,いつ踏み切ったか?」がわかれば,2018年2月号で紹介した,レーザ・スキャナを利用したスキー・ジャンプ飛翔計測装置とあわせることで,選手個々の飛翔データを完全に管理できます.

● 教訓…高速移動体を測るときはチューニングが重要
ところが,これが一筋縄では行きません.マラソン選手などの速度と違い,スキー・ジャンプの場合は秒速25m程度で移動しています.0.01秒のずれは距離にすると25cmにもなるため,高い周波数での読み取りが必要です.リーダで1kHz程度での読み取りを実施しましたが,アンテナの放射パターンによっては,アンテナの正面以外の位置にあるRFIDタグにも反応してしまい,同じRFIDタグの読み取り情報が1度のジャンプで大量に得られます.放射パターンの狭いアンテナを使い,かつ出力を下げて正面のRFIDタグだけに反応させるようにしましたが,それでも得られるデータのうち中間のデータを採用するという工夫が必要でした.
高速移動体の計測では,サンプリング周波数を高くしなければならず,そうするとRFIDのデータが大量に届いてしまう,ということは実に盲点でした.

仰木 裕嗣(Interface2020年3月号 p.157より転載)