TOPPERSカンファレンス2023レポート

開催概要

組み込み向けリアルタイムOS TOPPERSをはじめとした組み込みソフトウェアや教育向けコンテンツを開発・公開しているNPO法人TOPPERSプロジェクトは,プロジェクトの成果や最新動向を伝えるTOPPERSカンファレンス2023を6/30に大田区産業プラザ(PiO)で開催した.同カンファレンスは年に1回のペースで開催している.

https://www.toppers.jp/index.html

プロジェクト・リーダ 名古屋大学教授 高田 広章氏


各講演の内容

● Armのハードウェア仮想化パッケージ

アーム株式会社 喜須海 統雄氏による特別講演「ArmにおけるIoTソフトウェア開発支援プログラムとクラウド活用」では,Armコアと検証済みIPをパッケージ化した製品Arm Corstoneや,ArmベースのIoT製品のファームウェア・アップデートをを行うパッケージProject Centauri,ソフトウェア規格CMSIS Version 6について解説した.

 

また,Arm Virtual HardwareはArmコアを仮想化したパッケージ.Amazon EC2上でCortex-Mマイコン製品の開発が行える.Arm Virtual Hardwareは無償で利用できる(Amazon EC2インスタンスについては別途課金が必要).aws marketplaceで入手可能である.

https://aws.amazon.com/marketplace/pp/prodview-urbpq7yo5va7g

 

● スマートホームの新規格Matter

アリオン株式会社 中山 英明氏

アリオン株式会社 中山 英明氏による「Apple、Amazon、Googleも参画する新規格「Matter」によるスマートホームへのインパクト」では,スマートホームの新規格Matterの紹介.現場のスマートホーム機器は各社が独自仕様の製品を開発販売しており,相互に互換性がない.これを統一して扱えるようにしたのがMatterである.

 

MatterはConnectivity Standards Alliance(CSA)によりライセンスされる.このCSAは無線通信規格標準化団体ZigBee Allianceが改名した団体.CSAにはすでにスマートホーム市場に参入しているAmazon,Apple,Googleも加盟している.MatterはTCP/IPの上に構築されるプロトコルで,ハードウェア層の通信規格としては,Wi-Fi,Bluetooth,Thread(Google傘下のNest Labs社が設計したIEEE 802.15.4ベースのメッシュ・ネットワーク・プロトコル)をサポートしている.スマートフォンのiPhoneではiOS16のHomeKitがMatterに対応しており,Matter対応製品の登場が待たれる.

 

●  ワーキング・グループの活動紹介

そのほかTOPPERSプロジェクト内のワーキング・グループである教育WG,箱庭WG,TOPPERS開発者会議,TECS WG,ホームネットワークWGの活動紹介が行われた.

 

● ロボット向けフレームワークROS2をTOPPERSでマイコン対応したmicro-ROS

南山大学 本田 晋也教授

南山大学 本田 晋也教授による「micro-ROSのTOPPERS OS(ASP3)対応」ではTOPPERS/ASP3カーネルでmicro-ROSを動作させる取り組みについて解説した.micro-ROSはロボットや自動運転向けのフレームワークであるROS2(Robot Operating System)をマイコンで動作するようにしたもの.RTOSやベアメタル環境で動作するマイコンでROS2に接続するための機構である.

 

●  LLVM/ClangでTOPPERSをビルド

京都マイクロコンピュータ株式会社 辻 邦彦氏による「LLVM/Clangコンパイラの機能をTOPPERSで活用する」はTOPPERSをLLVM/Clangでビルドする試み.これまでTOPPERSは主にツールチェーンとしてGCCを使ってビルドしていたが,これをLLVM/Clangに置き換えるというもの.基本的にMakefile中で指定するコンパイラをclang/clang++にすることでビルドできるが,リンカとしてこれまで通りGNU-ldを使うためにGCCの定義も残しておく(リンカの変更はリンカ・スクリプトの互換性などが問題になるため)ことでビルド自体は成功した.しかし実行時に浮動小数点例外が発生したため,簡易的に対応して動作させたとのこと.

 

LLVM/Clangを使うことでカバレッジの取得やトレース機能など,便利な機能でソースコードの品質を高めることができるので積極的に使ってはどうかという提言がされていた.


基調講演

● プロジェクト・リーダによる基調講演

プロジェクト・リーダ 名古屋大学教授 高田 広章氏による基調講演では,技術的なトレンドとしてECU統合のためにハイパーバイザを搭載し,そのハイパーバイザとしてTOPPERSのようなリアルタイムOSを使うこと,旧来のOSであったTickタイマを廃したTicklessカーネルの評判が良いことなどが語られた.

 

また,近年は企業会員が最盛期100社から60社に減ったことについては,国内の家電メーカなどが減ってマーケットが減ったことや,リアルタイムOSを使わなくてもラズベリー・パイ+Linuxでお手軽に作れるような案件が多く,リアルタイムOSは本当に時間的に厳しい案件のみに使われるようになったことなどが挙げられた.

 

さらに今回正式リリースはされていないが,ロックをジャイアント・ロック(カーネルに入ってから出るまでロックしたまま)から細粒度ロック(必要な部分のみロックして,割り込み可能にする)へ変更するなど,内部的には実験的な機能を試していることなどが語られた.